アングル:動き出した中国の個人消費、規制解除でサービス急回復
[北京 26日 ロイター] – 前週末に「中国ファッションウイーク」の会場となった北京の工場倉庫跡地。多くの人で埋め尽くされ、ランウェーを歩くモデルたちはマスクもせず、観客も社会距離の確保などすっかり忘れ去ったかのようだった。
たくさんの人々でにぎわう同じような光景は、中国全土で目にされるようになっている。消費者が映画館やライブ演奏、飲食店に再び足を運んでいるからだ。
これは夏の終盤になってようやく顔をのぞかせた中国の家計消費の持ち直しが裾野を広げ、景気回復が次の段階に移行するのを後押しする証左だとの見方が多い。
中国のファッションデザイナー団体のトップを務めるZhang Qinghui氏は先週、ロイターに「8月の国内(アパレル)市場の売上高はマイナスからプラスに転じた。9月、あるいは第4・四半期まで見ても数字はもっと良くなるだろう」と語り、自信を見せた。
中国の消費動向の目安となる消費財販売は、第3・四半期末に自動車購入がけん引する形で幅広く増加した。背景には家計所得が増加に転じたことや、新型コロナウイルスのパンデミックに打ちのめされていた雇用環境が改善したことがある。
その結果、世界の小売業界にとって中国は、ただ1つの明るい市場となり、スターバックスからルイ・ヴィトンまであらゆる国際的なブランドの主要な収益源の役割を果たしている。
それでもモノに比べて、サービスの回復は遅れていた。特に接客業やケータリング業などは社会距離確保のルール、営業時間や収容人数の制限などのため低迷が続いていた。
しかし、第3・四半期になって各種制限が緩和されるとともに、接客サービス業界にも回復が加速する流れが生まれ、実際に同セクターの売上高の落ち込みは前期より縮小した。
ガベカル・ドラゴノミクスのアナリスト、Ernan Cui氏は「サービス業は、新型コロナで最も痛手を受けていた。今は各種制限が解除されつつあるため、徐々に立ち直ってきており、その動きは消費市場の広範な回復にとって、力強い押し上げ効果になる」と述べ、こうした市場も年末までに回復ペースがコロナ前に戻ると予想した。
あとはワクチンだけ
9月時点で中国の小売売上高の伸びは、まだ、コロナ前の3分の1程度しかなかった。しかし、8月になって映画をはじめ、さまざまな娯楽施設が再開したため、エコノミストは向こう数カ月で消費市場全体が急速に持ち直す局面に入ると期待している。
大型連休初日となった国慶節の10月1日の映画興行収入は7億4500万元(1億1142万ドル)と1日間としては今年最高、国慶節としても過去2番目の水準を記録。また、連休中の国内観光客は、まだ前年同期の79%だったとはいえ、6億3700万人に達した。
仕事から引退して上海で暮らす57歳のある女性は「以前の習慣を取り戻した」と語り、友人らと江西省新建県地域を巡る22日間のドライブ旅行に出かけた。
北京名物の曲がりくねった細い路地の胡同(フートン)地区。ここのバーでは、週末になれば地元のロックバンドの演奏に観衆が熱狂している。9月になってライブ演奏イベントを再開。従業員の1人は「ビジネスはおおむねコロナ前の水準を回復している。われわれに今必要なのはワクチンだ。それがあれば、本当に何もかもが正常に戻る」と言い切った。
こうした消費の回復は、法人を顧客とするいわゆる「B2B企業」にとっても、消費者を直接顧客とする人々に負けないぐらい重大な意味を持つ。
北京で映像制作スタジオを経営するパリ出身のベンジャミン・バルテレミーさんによると、過去2カ月間で多くの中小映画関係企業が新型コロナの打撃から立ち直り始めた。「数多くのミーティングやプロジェクトが復活しつつある。まるで機械がゆっくりと再始動するかのようだ。自動車その他あらゆる製品の広告展開も申し分ない」という。
雇用が支えるオンライン消費
アリババ・グループ傘下の天猫(Tmall)は、今年も11月11日に大々的な「独身の日」セールを開催する予定で、12年目となる今年の取引額は最高を更新する見込み。参加する外国ブランドは2600超と過去最多が予定されている。
活発なオンライン消費は雇用改善に支えられている。1─9月に中国の都市部で創出された雇用は898万人と、政府が今年の年間目標として掲げる900万人超に接近。それに伴い第3・四半期の家計所得は前年比0.6%増とプラスに浮上している。