”無双”状態のウォルマート、壁にぶち当たるアマゾン… コロナショック下で明暗分かれる米小売業 

岩田太郎(在米ジャーナリスト)
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ウォルマートがオンラインの勝者に

顧客だけでなく従業員の感染防止の取り組みも小売企業にとって重要だ。しかし対応の遅れを指摘する声も少なくない(写真はウォルマートの店舗)

 需要が急激に伸びるなかで意外にも苦戦するアマゾンを尻目に、オンラインの領域でも絶好調なのがウォルマートである。米データ分析企業の1010dataによると、ウォルマートの3月のオンライン売上高は9億ドルで、対前月比21%、前年同月比では99%も増加したという。

 コロナショック下で実店舗の売上が伸びているとはいえ、ウォルマートでも感染防止を目的に入店者数の制限や営業時間の短縮などを行っており、そこで失った商機の一部をネットで取り返しているのだ。実際、モバイルマーケットデータ企業のアップアニーによれば、3月29日から4月4日の1週間でウォルマートアプリのダウンロード数が460%上昇したという。オンラインで注文した商品の店頭受け取りサービスもこうした状況下で好評だ。 

 また、ウォルマートは刻々と変容する顧客のニーズに応えることにも成功している。ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは、「パニック買いの第1波は主にトイレットペーパー、そして第2波は主に食料品であったが、家で過ごす時間が長引くにつれパズルやゲーム、そして理髪用品、髭剃りやヘアカラーなどのパーソナルケア商品に売れ筋が移ってきた」と語っている。マスクを手づくりするためかミシンも「飛ぶように売れている」(同)という。

 このように移り変わる売れ筋の商品群のほぼすべてをウォルマートはカバーしている。同社の売上構成は生鮮を含む食品が主力でありながら、非食品でも日用品やパーソナルケア商品、家電まで幅広いカテゴリーを扱う。そうした豊富な品揃え
に加えて、店舗とネットの融合を図るオムニチャネルの取り組みを強化していたことが、コロナ危機という未曾有の状況下においても強みを発揮した格好だ。

従業員や消費者の安全確保に各社苦心

 ウォルマートはおよそ150万人の従業員を抱える、民間企業としては全米最大の雇用主でもある。3月には需要増に応えるべく新たに15万人の臨時雇用を発表、それでも人手が足らず4月にはさらに5万人を雇い入れると発表した。この合計20万人のうち10~15%は正社員に登用する計画だという。また、既存の従業員に対しても最低時給を2ドル引き上げるなど、“社会の公器”としての役割も果たしている。

 他方、イリノイ州のウォルマート店舗では2人の従業員がコロナウイルスに感染して死亡し、遺族から訴訟を起こされるなどの困難にも直面している。ウォルマートに限らず、全米で数十人の食品小売店の従業員の死亡も報告されている。

 小売店の従業員は、自宅待機を迫られるなかでも休むことが難しい「必須要員」だ。しかし彼らに対する適正な数のマスクや防御服、危険業務手当の支給などで、小売各社は対応の遅れを指摘されている。アマゾンでは感染者を出した配送センターを直ちに閉鎖しなかったとして、改善を求める従業員と経営陣が対立を深めるという事態にもなっている。

 従業員と顧客の感染防止策にも各社は苦慮している。現在、米小売各社は買物客に対してマスク着用や、店内で他人と1.8m以上の距離を取るよう要請する一方、従業員にも毎日の出社時に体温を計測してもらうなど策を打ち出している。だが、発熱した店員の入店は防げても、たとえば無症状でやってくる感染客からの従業員への感染を完全に防ぐことはできないだろう。仮に来店客の体温を測ったとしても、熱のあるお客に入店禁止を命じると法的問題も生じるため、ウォルマートのダン・バートレット副社長は「政府が指針を決めてくればありがたい」との見解を示している。

 有効なワクチンや治療法が確立するまで、コロナウイルスとの戦いは続く。感染の状況や当局の通達次第で事態はめまぐるしく変化していく可能性が高い。そうした“異常なニューノーマル”を生き残るためには、その時々の需要に合った商品構成の策定や、宅配を含む多様な販売チャネルを安定して提供することが求められている。

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