[ニューヨーク 26日 ロイター] – 新型コロナウイルスは米国内ではまだたいした広がりを見せていない。だが新型ウイルスを巡る懸念だけで、米国株の時価総額は既に約2兆ドル減少、さらなるパニック売りも誘いかねない。こうしたことが米消費者の支出を阻害する恐れがある。新型ウイルスの他の経済的影響はまだこれからだというのに─。
エコノミストは今や、新型ウイルスと、それが市場に及ぼす影響と、これが消費者景況感を悪化させる可能性があいまって、過去最長の米景気拡大への最大のリスクになると考えている。
オックスフォード・エコノミクスの米国担当チーフエコノミスト、グレゴリー・デイコ氏は「今回の感染拡大では、金融環境の引き締まりが本当に重大な変化のきっかけになると思う」と述べた。
デイコ氏は、世界的な感染症例の増加と、米国でも感染は広がり得るとの警告により株価は下がり、ドルは上昇、社債のスプレッド(上乗せ金利)は拡大したと指摘。こうした相場の不安定化は、退職をにらんだ一部消費者が支出を抑制するかもしれないことを意味しているという。「懸念するゆえに見通しが一段と慎重になるということになりがちだ」
株価は、上昇しても常に消費支出の増加に結び付くわけではないが、過去の相場急落では米国民は支出を切り詰めた。例えば2018年12月にS&P総合500種指数が9.2%安と、月間ではリーマン・ショック以降で最大の下落率を記録した際、商務省の小売売上高統計のコア売上高は前月比3%落ち込んだ。
今週25日のS&P総合500種は、19日の過去最高値から7.6%下落。わずか4営業日で時価総額ベースでは2兆1000億ドル余りが吹っ飛んだ。
ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は、株式相場低迷が長期化すれば、米企業向けサプライチェーンの寸断といった中国での操業停止から被る他の影響よりも、米経済に大きな打撃が及ぶ可能性があると分析。株価のほうが消費者に直接影響する恐れがあるためという。「米国の消費者は実際のところ、景気拡大と景気後退の間の緩衝材の役割を担っている」と話した。
ザンディ氏によると、米消費支出で大きな比重を占めるベビーブーマー世代は退職について気にしている世代のため、市場が不安定になるとしばしば、不要不急の支出をすぐ減らす。
クイル・インテリジェンスの創業者ダニエル・ディマーティノ・ブース氏によると、株式をかなり大口保有し、消費者支出額でもかなりの比率を占める富裕層も相場不安定で支出を減らしかねない。これが高額品の売り上げを減らす可能性があるという。同氏は以前、リチャード・フィッシャー前ダラス連銀総裁の顧問だった。
調査会社モーニング・コンサルトの消費者景況感指数は先週、新型ウイルスの懸念が広がり株価を押し下げ始めた時期に、小幅な低下だった。消費者の見通しは依然、米中通商紛争の不安が高まっていた昨年秋よりは楽観的だ。ただ、景況感指数が低下したことは、新型ウイルスによって世界の経済成長が減速して最終的には米国経済にも打撃を及ぼしかねない、と消費者が心配していることを示す。
オックスフォード・エコノミクスのデイコ氏は、新型ウイルスの感染例がニューヨークや首都ワシントン、サンフランシスコといった主要都市で出てくる事態になったりすれば、消費支出と米経済への打撃はもっと劇的なものになると予想。そうなれば大型イベントも中止され、人々は家にこもるようになり、航空旅客も減ってしまいかねないという。
グラント・ソーントンのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は、新型ウイルスの感染拡大を抑え込む取り組み自体が経済の阻害要因になり得ると指摘。経済成長への影響の可能性に対処しようする各国政府は、国内の動きだけでなく世界的な動向も注視する必要があるとした。
「これは特異な衝撃だ。自然災害と違って、その後の復興需要はない。恒久的に失われてしまうものもあり、打開のため財政政策や金融政策を動員するのも難しい」という。