米小売2位のクローガーが4位アルバートソンズを買収へ! 米小売業界の反応は?
市場寡占化による食料品価格の高騰が懸念
クローガーは10月14日付のプレスリリースにて、今回の合併は「一流のオムニチャネル食品小売業者として、顧客への品質・価値・利便性・選択肢の提供を一層推進する。また、価格の引き下げや顧客体験の向上、従業員の賃金と福利厚生を充実させるための投資を引き続き行っていく」と宣言している。
しかしながら、今回のクローガーおよびアルバートソンズの合併について、各州の司法長官をはじめ米国上院議員、下院議員、全米食品商業労組(UFCW)、消費者団体などから多くの懸念の声が上がっているようだ。
たとえば買収発表前の13日からすでにツイッター上でバイデン政権の介入と合併の阻止を強く訴えていた上院議員のバーニー・サンダース氏およびエリザベス・ウォーレン氏は、下院議員のジャン・シャコウスキー氏と共に連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン議長に取引反対を促す書簡を送付。10月26日にはコロンビア特別区および5州の検事総長が、2社に書簡を送り、アルバートソンズの株主への40億ドルの特別配当支払いを保留するよう要請した。
また、ワシントンDCのカール・ラシーン司法長官は反トラスト審査を行うための超党派による調査を計画していると述べた。上院議員のエイミー・クロブシャー氏とマイク・リー氏も合併に伴う深刻な懸念を共同声明で発表。反トラストや競争政策、消費者の権利に関する上院司法小委員会は、合併を精査するための公聴会を11月に開くことを発表するなど、多くの政治家や団体が反対の意を表明している。
声を上げている人々の懸念を具体的に述べると、
①メーカー側との仕入れ交渉においてSMの優位性が高まり反競争的になること
②食品市場における巨大企業の力がより強くなることで業界の競争が弱まること(小規模な競争他社にとって不利な環境になる)
③最終的には商品価格がさらに上昇することを指摘している。
また、
④合併に伴う店舗の閉鎖により失業者が増加することや食料品店を持たないコミュニティの増加
⑤合併によるPBやストアブランドの減少による買物の選択肢の減少
などが挙げられる。
今回の合併が想起させるのは、2015年のアルバートソンズとセイフウェイ(Safeway)の合併時の出来事である。合併の承認を得るためにアルバートソンズは100以上の店舗を売却、これらの店舗の9割近くを買い取ったワシントンの小売業者Haggen(ヘイゲン)はその後スピード破産し、多くの店舗を閉鎖、リストラを敢行することになった。
今回の買収においても、連邦取引委員会(FTC)の承認を得るためには、両社の店舗が重複する地域における店舗売却が必要となる。そのためアルバートソンズはスピンコ(SpinCo)という新会社(分割会社)を設立し、少なくとも100店舗以上、最大で375店舗を売却する計画を発表している。
未曾有のインフレ下、買収は承認されるのか
加えて現在米国は未曽有のインフレにより物価高が進んでいる。10月13日に米国労働省により発表された9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.2%の上昇となっており、ガソリンは前年同月比18.2%、食料品は11.2%、住居費は6.6%の上昇となった。
前月に比べて伸びが鈍化した品目もあるものの、前年との比較では大きく物価は跳ね上がっており、冬季に入りエネルギー価格の再上昇も懸念されている。一般市民の生活が圧迫される中、今回の大型合併が更なる生活環境の脅威になると見なしている人々が実際に多くいるのだ。
逆に、今回の合併が価格や品質において規模の経済によるメリットを消費者に届けることになる、または小売業界にとって最も包括的なファーストパーティデータを持つことになり、非常に強力なプロモーションやパーソナライズが可能になるなど、業界の更なる進展を予測するポジティブな意見や、「統合の動きはトレンドであり、本合併はその始まりに過ぎない」という見解もある。
このような環境下において今後は、チャレンジングな戦略に打って出たクローガーとアルバートソンズが、反トラスト法を含む規制当局の承認を獲得できるのかが最大の焦点となる。審査プロセスには1年以上が費やされる可能性もあり、合併を取り巻く11月からの政治経済動向が注目される。