インフレ時代の命運を分ける? 米大手小売がこぞって「在庫」を増やしている背景とは
「在庫」に対する考え方が変化?
そうした中、米国の大手主要小売は、混乱が続くサプライチェーンへの対応を進めている。たとえば、港湾に隣接する保管スペースの追加、あるいはより多くの在庫を貯蔵し、かつ拠点間の輸送距離を短縮するなどの目的で、物流センターの増設を進めている。
これについて、三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は、「在庫を必要最小限に留める『リーン』な状態から、欠品による販売の機会損失を防ぐために安定在庫を保持する『スラック』な状態へ、在庫に対する捉え方の変化が生じている」と指摘する。
物流拠点を多く点在させる施策は、コロナ禍以前からECと実店舗を展開する小売企業を中心にこれまでも取られてきた。だが、コロナ禍と足元のウクライナ情勢下では輸送効率に加えて、「安定在庫の保管」という面も考慮され、その動きがいっそう加速している。
増大する在庫に関しては、米国ではそれ自体を問題視する論調がメディアで散見される。だが前述の理由から、「(米小売各社が進める)在庫確保の施策はむしろ真っ当な経営判断である」と高島氏は話す。
また、在庫をさばくには価格を下げて販売することとなるが、米国の大手主要小売企業は、ウォルマート(Walmart)を筆頭に価格訴求型のプレイヤーが多く、インフレ状況下では顧客ロイヤリティを高めるチャンスとも捉えられる。
もちろん、企業側は売価を下げるため利益を圧縮することとなる。その一方で、「販売予測や販促計画をより精緻に行い、コスト管理の徹底や、粗利益率の高いプライベートブランド商品の開発などで、利益確保を図る動きが活発化することも考えられる」(高島氏)と見る向きもある。
サプライチェーン混乱やインフレという、小売業には逆風の状況でも、売上拡大を図りつつ利益確保を行えるかは各社の施策次第であり、その遂行度合いで優勝劣敗がより鮮明になりそうだ。
高島勝秀のグローバルリテールウォッチ の新着記事
-
2023/05/30
ベストバイ、ウォルマート、アマゾンも!米小売大手がこぞって ヘルスケア領域に参戦する理由 -
2023/03/13
大手の撤退相次ぐもベンチャーが続々参入……米ダークストアの最新事情 -
2023/02/13
米アマゾン首位陥落、コストコなど躍進の背景は?米小売「顧客ニーズ適応度」ランキング! -
2022/11/08
MFCかCFCか、日本ではNFCも登場! フルフィルメントセンターの最適解はどれ? -
2022/09/15
「卸不要論」を一蹴? 好調続く飲食料品卸に待ち受ける次なる課題とは -
2022/08/03
アマゾン、ウォルマートにコストコも……止まらない米小売の在庫増
この連載の一覧はこちら [26記事]
関連記事ランキング
- 2022-08-18「値上げの秋」も追い風に成長を続ける小売再生工場「業務スーパー」
- 2021-04-14ドアダッシュVSウーバー? 急成長する米フードデリバリー市場、大型買収でシェア争いが過熱!
- 2021-06-25米ドアダッシュが日本進出! フードデリバリー業界は“消耗戦”の様相へ!?
- 2022-11-08MFCかCFCか、日本ではNFCも登場! フルフィルメントセンターの最適解はどれ?
- 2022-04-07小売業受難の2022年なのに、百貨店の株価が高騰する理由とは
- 2022-11-08値上げ時代、スーパーマーケットが取るべき価格戦略とそのための仕組みづくりとは何か?
- 2022-11-09値上げ局面でバローが商品原価を大きく低減させている手法とは
- 2023-05-097社の「勝ち」フォーマットを徹底検証!インフレでも強いスーパーマーケットの条件とは