[ワシントン 1日 トムソン・ロイター財団] – ミシガン州デトロイトのブライトモア地区で暮らすルイス・クエンカさんは、10年以上前にリセッション(景気後退)が始まった時点で、すでに近隣の衰退は進行していたと語る。家賃を払う余裕のなくなった多くの住民らは、なすすべなく家を出て行った。
地元の調査機関データ・ドリブン・デトロイトによれば、2010年にはブライトモアの住宅の4分の1は空き家になっていたという。まもなく家屋の解体が始まった。同時に、残された空き地を何か別のことに使うチャンスも生まれたことになる。
「空き地は多かった。最初はちらほらだったが、あらゆるブロックで空き地が見られるようになった」。現在40代のクエンカさんは、2009年に結成された住民団体ネイバーズ・ビルディング・ブライトモアの幹部だ。
クエンカさんはトムソン・ロイター財団の取材に対し「こうして、ある程度の空き地をまとめて、菜園やミニ公園、住民交流イベントを行えるような緑地に転換するチャンスが訪れた」と語る。
最初の取り組みは若い世代向けの菜園だったが、それを契機に、貸し工具ショップや温室など次々にプロジェクトが生まれ、1区画、また1区画と新たな姿に変わっていった。
都市再開発の専門家は、見捨てられ荒廃していく都市では、空き地が別の部分にも広がっていくことが多いと語る。過去10年間、米国全土で空き地が増加する中で、各都市は対応に苦慮してきた。
だが、空き地を地元のニーズに応える活気溢れるコミュニティー空間に変貌させようとする都市に対して、じきに支援の手が差し伸べられるかもしれない。
連邦政府は1月、国が拠出する3500億ドル(約40兆0503億円)規模のパンデミック支援予算を空き地対策に使うことができることを承認した。これで地方自治体はかなりの資金を自由に使えるようになった。
「空き地の大半は、再生・修繕の支援はもちろん、特に社会経済の活発な地域(インフィル)を支えるほどの活力のない都市マーケットに存在する」と語るのは、コミュニティー再生に特化した全米規模の非営利組織(NPO)、センター・フォー・コミュニティー・プログレスで上級プログラム役員を務めるジャネル・オキーフ氏だ。
オキーフ氏は「空き地の用途が定まらないうちは、有害な存在にも、価値ある資産にもなりうる」と言い、空き地は雨水管理や低価格住宅の建設、あるいは単に公共緑地などの形でコミュニティーのさまざまなニーズへの対応に利用できると指摘する。
「今が転機だ。空き地利用には本当にチャンスがある」と同氏は言う。
デトロイトのブライトモア地区では、その変化がすでに感じられる。クエンカさんによれば、「ブライトモア・ファームウェー」には現在約50カ所の菜園と本格的な農場があるという。
クエンカさんは同地区について「以前よりはるかに安全になっている」と語り、ファームウェー創立以降、薬物取引や犯罪組織の活動、それに伴う暴力が顕著に減っていると指摘する。
「とても緑が豊かで本当に美しい。まるで田園地帯にいるかのようだ」
「欠けた歯」
米国全体では空き地に関する包括的な統計はないが、センター・フォー・コミュニティー・プログレスでは、数十万カ所に上ると試算している。
同NPOがミシガン州青少年暴力防止センターと共に作成した2020年の報告書によれば、2009年の住宅市場の崩壊の影響が残る中で、空き地対策に携わる組織の約3分の2が「把握している物件(大部分が空き地)が過去2年間で増加した」と回答している。
すでに一部の都市は、連邦政府からのパンデミック支援財源を空き地対策に活用しようと動き出している。
シカゴ市長事務所の広報担当者は、あるメールに、同市が8700万ドル規模の計画の詳細を詰めているところだと書いている。計画の狙いは「コミュニティーに恩恵をもたらすように近隣住民に所有権を移転すること(中略)により、空き地となっている市有地を再活性化し、コミュニティーの資産を構築する」ことだという。
ミルウォーキー市(ウィスコンシン州)で環境持続可能性担当ディレクターを務めるエリック・シャンバーガー氏によれば、同市はパンデミック支援予算を活用し、気候変動対策につながる「ネットゼロ」(温室効果ガス排出量が実質ゼロ)住宅を空き地に建設したいと考えているという。
この事業のベースになるのが、同市の「HOME GR/OWN」プロジェクトだ。同プロジェクトは過去10年間、地域における「欠けた歯」(シャンバーガー氏)である空き地問題に対処するために、地元コミュニティと密接に協働してきた。
シャンバーガー氏によれば、「HOME GR/OWN」プロジェクトでは約100カ所の空き地の緑化を促進。その結果、17カ所の地域公園のほか雨水管理システム、インターネット接続スポット、果樹園、農園事業が生まれたという。
シャンバーガー氏は「こうした空き地は、近隣住民がプロジェクトの構想・設計・構築を支援する機会を生み出す、地域にとって非常に身近な存在になる可能性がある」と語る。
よりスマートな都市計画へ
センター・フォー・コミュニティー・プログレスは昨年9月、全米での先進的な空きスペース開発計画を集めたデータベースを公開した。すでにイベントスペース、運動公園、農業への取組みなど数十例が集まり、なお拡大中だ。
だが同NPOのオキーフ氏は、空き物件活用に向けた包括的アプローチを採用した都市はまだ存在しないと話す。
その一因は、健全かつ安全で気候変動に対しても強靱な地域をもたらす取組みについて理解が進む一方で、地方当局者の間では、将来的にこれらの空き地が再開発されるのではないかという期待を捨て切れていないからだとオキーフ氏は言う。
「すべての空き地に家を建て直すことが好ましいのか。それとも空き地は、今まさに住んでいる人々にとって地域をよりよく設計・建設するためのチャンスだと考えるべきなのか」。同氏は問いかける。
場所によっては、そういうチャンスは消えつつあるのかもしれないと語るのは、空き地対策の専門家で、現在はオハイオ州クリーブランドの樹木・植物園「ホールデン・フォレスト・アンド・ガーデンズ」に所属するサンドラ・アルブロー氏だ。
アルブロー氏は2012―20年にかけて、3つの都市で「空き地活性化」事業に携わった。事業の狙いは、多くは0.1ヘクタール以下と非常に小規模な空き地を活用し、地下では雨水管理、地上ではレクリエーション用途に活用するというものだった。
クリーブランド市のうち、1950年代に造成された過密地区は、このところ洪水の発生と下水道の問題に悩まされているとアルブロー氏は言う。
そして、空き地は市内に自由な空間をもたらし、より先進的な気候変動対策を備えた都市を再構築するために活用できたかもしれないが、そのための時間は残り少ないと語る。
「よりスマートな都市計画はどうあるべきか、人々の理解が変わるよりも速く、再開発の波が押し寄せている」とアルブロー氏。
「空き地があっという間に埋まっていくのが現状だ」