データで見る流通
“働くママ”の料理ニーズ
文=園部 和男
株式会社バルクMR事業部 MR企画分析部
シニア アナリスト
マーケティングリサーチやコンサルティング事業などを展開するバルク(東京都/大竹雅治社長)は、30代~40代女性に注目し、そのライフスタイルについて調査研究を継続的に行っている。
2014年10月には、料理について調査を実施。30代~40代女性をライフステージ別に分析しており、本稿では、小学生以上の子供がいる「働くママ」の料理ニーズの特徴を解説したい。
まずは料理実態である。図表1には、平日夕食の料理時間と品数の平均値を示した。料理時間は、専業主婦の46.0分に対して、働くママは、40.1分と5分ほど短い。一方、品数では専業主婦と働くママの間に時間ほどの差がないことがわかる。また、市販の総菜や冷凍食品の利用頻度についても、専業主婦と働くママの間にほとんど差がないことがわかっている。
では、働くママは、この5分の時間短縮のためにどのような工夫をしているのであろうか?当社では、既婚女性の料理実態を深掘りするために、オンライン・フォト・リサーチも実施した。この調査では、市販の冷凍食品以外に自宅で冷凍しているものを写真として撮影し、工夫している点についてのコメントを得た。その結果、働くママたちの多くは、野菜や精肉などの食材をはじめ、カレーなどの調理済み食品まで、1食分ずつ上手にパックし、冷凍保存していることがわかった。回答者によると、野菜はすぐに使えるようにカットしておき、精肉は、1食分の使用量を考えてグラムを測り、小分け冷凍しておくことがポイントだそうである。ある回答者は、お菓子づくりのために買ったデジタル計量器が、今では小分け冷凍用になってしまったそうである。このような料理行動に関連して、働くママは、食品スーパーの利用では複数日分のまとめ買いが多く、「買物に行かなくても家にある材料で料理をつくることができる」など、料理の手際に自信があることが調査結果から明らかになっている。
次に、働くママの料理ニーズを理解するには、心理的な側面にも触れておく必要がある。調査では、30代~40代女性の料理を通じた「Beニーズ(なりたい私、自分で大好きだと思える私)」を測定している。図表2は、13のBeニーズの価値観ポジションと円の大きさでニーズの強さを示す。既婚女性で最も強いBeニーズは、左上部の「健康でいたい」というニーズで、料理を身体づくりの基本と考え、栄養バランス、野菜の摂取にこだわりを持ち、家族の健康のためによいことをしたいと願う。
働くママの特徴は、「安全安心でいたい」「よき母・妻でありたい」なども含めて、左上部のニーズが強い点にある。「安全安心でいたい」は、食材について、産地や無添加など安全面にまで配慮し、安心できる食生活を望むものである。「よき母・妻でありたい」は、手づくりの料理や家庭の味を通じて家族の喜びを実感し、理想とする母・妻像に近づきたいという願いである。
このように働くママの持つ理想像は、子供の健康や安全を願い、料理を通じて家族と喜びを分かち合うことにあり、だからこそ、家族と一緒に食事する機会を大切にし、面倒であっても自家製の冷凍食品をつくるのである。働くママたちは、調理器具などの道具にこそ、時短としての関心は高いが、食品や食材については、本質的なニーズを満たすものを求めているのではないだろうか。
(「チェーンストアエイジ」2015年3/15号)