ユニクロ柳井正会長が「世界は可能性に満ちている」と語る真意
日本企業としてのサステナビリティ
アパレル業界では、特に欧米の大手アパレルブランドが中心となって価値観の潮流を作っているようなところがありますが、はたして欧米企業の提唱しているサステナビリティは本当に良いのでしょうか。必ずしも海外からの情報が優れているわけではないので、違う場合は「それは違う」と言わないといけないですし、鵜吞みにしてはいけません。
欧米の価値観で、欧米流のサステナビリティを我々日本の企業がやろうとしても、先ほど言ったようなアパレルの借り物文化のように、表面的で形式的になってしまいます。もともと日本の企業も、社会にとって良いことをしようとして商売をやってきたはずです。
ただ、現在は欧米の企業の方が、そういうことをよく考えているのは確かです。なぜ日本の企業は、社会に良いことやサステナビリティを考えなくなってしまったのでしょうか。それは、あまりにも長い間、日本人だけで商売をやってきたからではないかと思います。お互いに暗黙の了解で商売をやってきた間に、社会の中での自分たちの存在に向き合って来なかったからではないかと思います。
自分だけ良くなることは不可能
近年のパンデミックや世界の紛争、戦争を通して、我々が思っている以上に世界がシームレスにつながっているということが露わになりました。グローバル化、デジタル化が進み、個人の生活も、企業の経営も、世界中のどこにいても、全部つながっています。そのような世界においては、もはや「自分だけが良くなる」ということは不可能なのです。
このような時代に、最も良くないのは、自分のことだけ、自社のことだけ、自国のことだけ、といった一方的な利益しか考えないことです。単純な思考、極端な行動、自分たちと異質なものを許容しない不寛容、そうした考え方では、これからの世界は何も解決できないのではないかと思います。国や民族の枠組みを超えて、もっと高い位置から世界を見て、社会のために商売をする視点を持てば、世界はまだまだ、様々な可能性に満ちています。
「ユニクロに学ぶサステナビリティ」連載を終えて
「企業が取り組むべきサステナビリティ活動とは何か」という問いを重ねていくと、結局、企業は何のためにあるのか、その企業が世の中に存在する意味は何か、ということに行きつく。遠回りのように見えても、やはり今一度、自社の存在意義を見つめ直す意義は大きい。そこからスタートすることで、自社の事業の継続が、社会全体の持続的な成長や繁栄とともにあることに改めて気づかされる。
本連載の執筆中に、驚くべきニュースが飛び込んできた。ユニクロで米国事業を初めて黒字化した塚越大介氏が、9月1日付で、ユニクロの代表取締役社長兼COOに就任したのだ。
柳井正氏はユニクロの代表取締役会長兼社長から、代表取締役会長兼CEOとなった。柳井氏が引き続きグループ全体の経営の舵取りを行っていくものの、後継者問題が注目される中で塚越氏のユニクロ社長就任は、次世代のチーム経営体制の実現に一歩近づいた形だ。連載途中での、このニュースは、ユニクロが今なお進化の最中にあることをリアルに感じさせる出来事であった。
「環境負荷の最も高い産業」と言われるアパレル業界にありながら、ユニクロ、ファーストリテイリングのサステナビリティに対する取り組みは、ステートメントに始まり、自社の商品開発や店舗設計はもちろん、難民支援、次世代育成、ダイバーシティ……と実に多様だ。それは、アパレルや小売といった既存の産業とは違う、「持続可能な成長の仕組み=新しい産業」を目指している結果でもある。
連載中、読者から「ユニクロがこんなことをやっていたとは知らなかった」「こういう考え方はうちの会社にはなかった」などといったフィードバックをいただくこともあった。この連載が、サステナビリティ活動への取り組みの一助になれば幸いである。
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