キャシー松井氏に聞く ビジネスを拡大し続けるためにユニクロが取り組むD&I
キャシー松井氏といえば、ゴールドマン・サックス証券会社の元日本副会長であり、1999年に「女性」と「経済」と組み合わせた造語で「ウーマノミクス」という考えを提唱したことで有名だ。「日本経済が停滞から抜け出すためには、人口の約半数を占める女性の労働力を活用するのが最善の解決策である」という松井氏の提言は、その後、安倍政権が成長戦略の一環として女性活躍を推進する方針を打ち出すなど、政財界にも影響した。2021年11月より、ファーストリテイリングの社外取締役に就任したキャシー松井氏に、企業がダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に取り組む意味について取材した。
キャシー松井氏とファーストリテイリング
2020年末に松井氏がゴールドマン・サックスを退職すると、様々な企業、団体からオファーが殺到した。だが、当時の松井氏はベンチャーキャピタルファンドを立ち上げることに忙しく、ほとんどのオファーを断っていた。その中で、2021年11月、ファーストリテイリングの社外取締役に就任したのはどういう理由だったのだろうか。
「もし引き受けるとしたら、私が持っている知識や経験を生かすことができ、かつ、私も学べるような企業で、しかも自分とフィット感のいいところ、と考えました。ファーストリテイリングは、日本企業であるにも関わらず、ユニクロというブランドは海外でも浸透しており、自分自身もファンでした。アパレルという領域で、本当にグローバルで圧倒的なトップブランドになるために、自分が貢献できることがあるのではないかと思い、ジョインしたのです」(松井氏)
松井氏の知見が生かせる点とは、言うまでもなく、30年以上にわたる経験から、株主や投資家の目線から日本の株式市場全般、日本経済全般、あるいは個々の企業を分析できるということ。また日本のコーポレートガバナンスの問題点、グローバルスタンダードになるためには何が必要なのかを学んできている、ということ。そして、もう一つが、コーポレートガバナンスを含め、ESGという評価軸から企業に提言ができることだ。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉で、企業が長期的成長を目指す上で重視すべき観点とされる。近年、気候変動問題や人権問題などの世界的な社会課題が注目される中で、ESGへの配慮ができていない企業は、投資家などから企業価値毀損のリスクがあると見なされるようになってきている。
「以前は企業を評価する軸や尺度は財務指標が中心でしたが、それは外見的なことに過ぎません。やはり人間と一緒で、外見だけでは本当にその会社の中身までわからないので、ESGという非財務指標が重視されるようになってきました。その会社のカルチャーや、従業員への対応、D&I、環境に与えているインパクトなど、数字では測りにくい指標です。そういったESGの観点から、今後さらにファーストリテイリングがグローバルでリーディングカンパニーになるために何が必要なのか、ということを提言しています」(松井氏)
逆に松井氏が、ファーストリテイリングから学べることとはどういったことなのだろうか。
「日本では、時価総額10兆円以上の会社はまだ少ないです。9月5日の時点では8社ですが、米国の場合は114社もあります。その中で、ファーストリテイリングの時価総額は10兆円以上です。もちろんここまでくるのは簡単なことではなかったはずで、山口県の小さな会社が、苦労しながら成長してきたのです。そんな企業から、私も色々なヒントをもらえるのではないかと考えています。私達はいま日本と海外のスタートアップ企業に投資していますので、私が学べば、スタートアップの若い創業者たちにもシェアすることができます」(松井氏)
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