「画期的なことより正しいことを」 水使用量99%削減したユニクロのジーンズ開発者に聞く
ジーンズイノベーションセンターとは
松原氏は、国内のジーンズ専業メーカーに勤めた後、ロサンゼルスに渡り、プレミアムジーンズのファクトリーブランドに転じた。ユニクロに入社する以前に、すでにジーンズのデザイナーとして20年の経験を持つプロフェッショナルだ。
松原氏の経験と、ロサンゼルスで培ったネットワークがそのまま生かされ、入社と同時にジーンズイノベーションセンターの準備が始まった。
ジーンズイノベーションセンターは、ジーンズの生産をする工場ではなく、あくまでジーンズの研究開発のための施設だ。素材、デザイン、縫製、洗い加工などのサンプルを作り、そのレシピを開発して、製品を作る世界中の工場に提供している。工場によっても国によっても水や使用する薬品が違うため、センターのメンバーが現地に赴き、目指すものが出来上がるよう調整していく。
新商品を開発するだけでなく、現在ファーストリテイリンググループの全ブランドのデニムのすべてのモデルに対してディレクションしている。
「ジーンズイノベーションセンターができたから、そこで画期的な技術革新が生まれて、それによって環境に配慮したジーンズができたわけではないんです。技術的には、それぞれのメーカーやファクトリーがこれまで進めてきたことです。ただ、僕たちジーンズイノベーションセンターでは、洗い加工だけではなく、素材の開発から、縫製技術も含めて一貫して開発しているので、それらの技術や情報を結集させて、その結果としていいものが作れている。ジーンズ業界の中でも、こんな環境はほかにはないと思います」(松原氏)
ロサンゼルスだからこそできること
「ジーンズの開発拠点をロサンゼルスに作りたいというのは、当初から柳井社長が持っていた構想でした。実際にそこでどういうことをやっていくか話し合う中で、ジーンズの価値観を変えて、サステナブルなものづくりを目指していくということにフォーカスされてきました」(松原氏)
ロサンゼルスにはグローバルでジーンズを作るための環境がある。デニムの生地メーカー、縫製工場、加工工場が揃っていて、同時に一大マーケットでもあり、ジーンズ作りにまつわるあらゆる情報が世界中から集まってくる。そして、サステナブルなものづくりにおいても、ロサンゼルスという立地が大きく影響している。
「カリフォルニア州は日本のように水が豊富にはない地域ですから、水問題が常にありました。そして、ロサンゼルスのジーンズ業界全体が、サスナブルなものづくりということに向かっていました。ジーンズを洗うウォッシングマシーンの会社や薬品メーカーも含め、既にそういった研究を始めていたのです。僕がユニクロに入社した2015年当時、日本のジーンズ業界ではまだそういった雰囲気はなかったと思うので、やはりロサンゼルスは環境が整っていました」(松原氏)
環境負荷の少ない商品開発に対しては、もちろん、水の使用量削減以外のアプローチにも取り組んでおり、たとえばジッパーに使っているテープは、すでに100%リサイクルポリエステルになっている。縫製糸は、通常ポリエステルのコア(芯)に綿を巻き付けて作るが、そのコアの素材もリサイクルポリエステルだ。ボタンの真鍮(しんちゅう)部分はリサイクルマテリアルに変え、メッキを加工するとき使う水も削減した。
「ジーンズはほかのアイテムに比べて部品が多いため、それらの部品も含めて取り組まないといけません。最終的には、最も環境に配慮したジーンズというのを、どこよりも先駆けてやりたいと考えています」(松原氏)
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