「難民はアセット」 ファーストリテイリング柳井正社長の、難民問題との向き合い方

北沢 みさ (MK Commerce&Communication代表)
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柳井正社長に影響を与えた人

 柳井正社長が難民問題に取り組むうえで、大きな影響を受けた人物がいるという。それが、前任の国連難民高等弁務官で、2017年より第9代国連事務総長に就任したアントニオ・グテーレス氏だ。グテーレス氏は、2011年にファーストリテイリングとUNHCRがグローバルパートナーシップを締結した当時の国連難民高等弁務官であった。

 「グテーレスは本当に熱意の塊のような人で、来日して会談した時にも、柳井社長に、難民問題について一緒にどうにかして解決してほしいと、ものすごい熱量で語っていました。そして、グテーレスが国連難民高等弁務官を退任した後に、さらに国連事務総長になったことで、柳井社長は、誰よりも熱意をもって世界の平和を考えている人が、世界を変えていこうとしている姿を目の当たりにし、大きな影響を受けた、とおっしゃっていました」(守屋氏)

 グテーレス氏は元々ポルトガルの政治家で、国連難民高等弁務官になる前は、第114代ポルトガル首相、社会主義インターナショナル議長、欧州理事会議長などを歴任した。国連事務総長に決定した時には、日本の報道では「親日家であるグテーレス氏は……」と紹介され、柳井社長と握手している写真が使われることも多かった。それほど、近い間柄であったことがわかる。

ファーストリテイリング柳井正社長と第9代国連事務総長アントニオ・グテーレス氏

朝日企業市民賞を受賞

 もう一つ、柳井社長が社会貢献、難民問題に取り組むうえで、励みになったであろう出来事がある。2006年から始めたユニクロの全商品リサイクル活動と、それによる難民支援が、2008年の「第5回朝日企業市民賞」を受賞したことだ。

 朝日新聞社が創刊125周年を記念して始めた「企業市民賞」は、企業そのものが社会の一員であることを自覚し、良き市民として行動するよう呼びかけるために設けられた賞だ。

 選考に当たって、朝日新聞社は「利益が出たときには派手な慈善や寄付をしても、不況になれば手のひらを返したように沈黙する。そんな企業よりは、社長から若手の従業員まで多くが参加して、できる範囲で活動を続けてきた会社こそ評価したい」とコメントしている。

全商品リサイクルを呼びかける店頭ポスター

 ユニクロの全商品リサイクル活動とそれによる難民支援は、自社の事業の中で、一人ひとりの顧客の協力のもと、店舗の従業員を巻き込んで、世界的な社会課題に貢献するという、本質的かつ継続性ある取り組みという点で高く評価された。

 柳井正社長は、ファーストリテイリングの前身である小郡商事を父親から引き継いだ際、経営者になるための心構えを書いている。そこには、まず「社会に良いことをする」と書いてあるそうだ。現在取り組んでいるすべてのことがはじめからできたわけではないが、事業を始める当初から目指していたことを、一つずつ、着実に積み上げてきて、今のユニクロがあるのだと思う。

 次回は、7月19日掲載。リテール業界としてできる難民支援について、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に取材した。

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記事執筆者

北沢 みさ / MK Commerce&Communication代表

東京都出身、日本橋在住。早稲田大学第一文学部卒業。
メーカーのマーケティング担当、TV局のプロデューサーの経験を経て、
1999年大手SPA企業に入社しマーケティング・PRを12年、EC・WEBマーケティングを8年担当し、ブランドの急成長に寄与。
2018年に独立後は、30年に渡る実務経験を活かし、小売・アパレル業界を中心に複数企業のアドバイザーとして、マーケティングおよびEC業務を支援中。

 

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