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消費二極化でアパレル企業は「どの領域」で戦うべきか?立ち返るべきファッションの本質とは

コロナ禍が落ち着き、外出需要もこれまでの巣ごもりの反動で増えたことで、アパレル業界も久々に潤っている。だが、この「反動」は長続きせず、今後中庸なアパレル企業の資金繰りはコロナ禍よりもむしろ苦しくなるだろう。そうしたなか、改めてアパレル産業復興のために、諸問題を徒然と語るとともに、我々業界人が失いつつある「ファッションの本質は何か」について議論したいと思う。

コロナ経済損失は世界で1600兆円超

oonal/istock

 新型コロナウイルスの脅威も一段落付いた。しかし、私たちが失ったものは極めて大きい。IMFによる見通しでは24年までに世界で12.5兆ドル(1635兆円)を上回る経済損失になるという。日本においては、2021年の間で27.9兆円の経済損失が出たと金沢大学の研究グループが算定している(他の研究機関の発表は1050兆円と開きがある)。

 コロナ禍を経て、多くの野党議員や学者、評論家達が一枚の“チャート”を繰り返し使うようになった。それは、日本という国が先進国の中で最も貧しく、また、最も成長していないというデータだ。バブル時代を経験していない今の若者世代は、日本の将来に希望を持てず、なんと社会人に入社と同時に、積み立てNISAを含む積み立て投資をはじめるという、40代以上には信じられないようなことが一般化した。「貯蓄から投資へ」といえば、聞こえは良いが、結局「日本という国は国民を食わせてゆくことはできない、投資の勉強を学生時代からやって、社会人になれば『自己責任』で生きてゆけ」ということなのだ。

 ではその日本の株式市場はどんな状況なのか。東証は基準をシンプルかつ厳格化し海外投資を呼び込み、活性化することを目的にグロース、スタンダード、プレミアムの3市場に再編成した。しかし実態は、ゾンビ企業に手厚い補助を与え、従来のままなんの変化もないことがメディアによってあばかれている。結果、日本市場から海外の投資家はむしろ逃げてゆき、昨今では日本人でさえも経済の強い米国やアジア諸国に投資先を変える向きも多い。結局リスクマネーは日本の企業に向かわず、一方で金をもっている企業でさえ投資先が分からないまま、自社株買いをしてお茶を濁している状況である。

日本企業の効率が低い根本的な原因

 マクロ経済について語ったのには理由がある。それは、「一人あたりGDPが、昨年は台湾に抜かれ、ついに韓国に抜かれるのも時間の問題」が合い言葉になっている今、アパレル不況は個別の企業の努力でなんとかなる問題ではないからだ。

 実際、インフレと円安がミックスされ、ものの値段が上がり給与は上がらないという状況になった今、「服など買っている場合か、まずは、ライフライン(食事、生活品など)だ」という具合に、ウォレットマネーは生活必需品に向かっている。メディアは次々と賃上げを報道しているが、それは「ただし大手に限る」話だ。日本は99%が中小企業の国で、その中小企業はトップラインが上がらないのに賃上げなどできる状況ではない。

 加えて、日本のアパレル企業は、市場規模全体の40%に17000社の中小企業がうごめいており、ユニクロ、しまむら、アダストリアを除けばアパレル単体の売上は1000億円前後というところだ。つまり、日本のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の導入が進まない根本的な原因は、ほとんどの企業が5億~50億円ぐらいしかなくかつ複層的な構造であるがゆえに産業全体の効率が極めて低いからある。個社のデジタル戦略の問題なのではなく、特殊な構造をもつ日本の産業界ゆえの生産性の低さなのだ。

二極化する衣料品 増える高所得者と減る中間層

track5/istock

 次に、「価格が二極化」する問題に話を移したい。

 「自己責任」的価値観が進む中で、目端が利く若者は早くから効率よい学びを行い、投資銀行やファンドなどに身を投じ、数億、数十億円という金を個人で手に入れ、賃金の上がらない多くのサラリーマンに大きな差をつけている。一方でDXの進展に伴い逆の現象も起こる。雇用とトレードオフの関係にあるDXが進むことで、高い付加価値を出せない多くの人材はあぶれていくということだ。つまり、単純作業の労働者と付加価値の高い人材への二極化がいっそう進むということだ。つまり、我が国のこれまでの消費、そしてファッション産業をけん引してきた中間層が激減していくということである。

 そうしたなかアパレル市場が1920年の15兆円から約半分の7.5兆円にまで縮小しているのは、人口減少以上に、SDGsにより服を買うサイクルが減ったこと、単価の下落(1990年に68481から、2019年に3202円、環境省「サステナブルファッション」より)と外資SPAやユニクロによる市場シェアの拡大による競争負けである。

 さらに、今年は中国、韓国企業が日本列島を静かに襲い、顧客を奪っている。アダストリアが「グローバルワーク」をリーズナブル価格にした「スマイルシードストア」を立ち上げたが、これは正しい判断だと思う。既述の通り、日本の経済は沈没し、もはや日本人の大多数が当てはまっていた「中間価格帯」というセグメントは存在しない。

 ピラミッドの一番上は、外資のスーパーブランドを買うだろうし、いまや日本人の大多数を占める低価格帯(実は、こここそ世界の標準価格である)は、中国Shein4000人の人間が並んだことでも明らかだ。本当は、タイミング的にも話題的にも、アダストリアが買収した「フォーエバー21」こそ、「安くて買い回しができるブランド」という認知が世界中になされているわけだから、アダストリアはここに低価格帯をつくる技術をもってくるべきだったのではないかと思う。

 さて、先日私宛に、日本の工場から連絡がきて「河合さんが紹介した工場が倒産したよ」といきなりいわれてしまった。私はコンサルティング先で倒産した企業がないため、よく調べてみたら、「単に本を読んだ人がご紹介をしてくれただけ」だった。

 しかし、私はその連絡をくれた工場が気になり「どことお付き合いをされていますか」、と聞いたところ、名前は言わないが、いわゆるゾンビブランドばかり出てきた。結局、自分たちが売れているブランドや改革をしている企業はどこなのかを調べもせずに「最近、景気が悪いな」と言っているだけなのである。今、日本のアパレルはアフターコロナの反動で、ひとときの安堵を得ているだけで、夏から秋にかけてはコロナ前に戻るどころか、もっと苦しい地獄が待っている。

 

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「人をワクワクさせる」ことが、不況打破の突破口になる

Diamond Dogs/istock

 もうひとつ、議論をしたいテーマは「文化の破壊」である。「所詮ファッションなのだから、何が流行ろうが、それは消費者の自由だ」という考え方もあるが昨今のアパレルブランドを見ていると、ほとんどがユニクロの真似のような商品ばかりで、中にはThe North Faceのような絶倫ブランドもあるにはあるが、思い出しても、その程度しか頭にでてこない。

 雨後の筍のように立ち上がるサステナファッションや、機能性重視の似かよった服ばかりを見ていると、日本が構築した「無駄の文化」がなくなっているように思う。実際、日本は機械式時計の時に大きな間違いを犯した。

 日本はかつて、「時間の精度」という機能性を重視した競争にクオーツを持ち出し、一気に市場を席巻した。そこでクオーツ技術を開発したセイコーは特許技術をオープン化したのである。これによりクオーツ時計が劇的に普及した一方、中国などアジアの国に模倣され数百円で製造が可能になり、日本とアメリカの時計産業は壊滅状態に陥った。

 着目すべきは、「クオーツショック」を辛くも生き残ったスイスのその後の戦略だ。スイスは現在、ややApple Watchに押され気味ではあるが、ロレックス一社で日本の機械式時計すべてを併せても叶わないほど隆盛を誇っている。

 スイスは時計を、「時を見るものでなく、ジュエリーである」と再定義したのである。つまり、私のブランド戦略論的に言えば、機能的価値から情緒的価値へ転換し、競争の軸をずらしたわけだ。だから、世界中の人は、人をワクワクさせるスイスの時計に大枚を払うのである。

 長々と書いたが、何が言いたいのかというと、今一度、ファッションとは何かという本質に立ち返り、考えてみるべきだ、ということだ。私は、LVMHがトヨタの利益を抜いたように、イタリアがデフォルトに陥ったとき、空港にジョルジオアルマーニの看板をでかでかとだし、世界中からフィレンツェに人を呼んでファッション大国の地位を確立したように、日本人は必ずやこの不況を脱するものと信じている。

 デフレ、低収益からの脱却劇はどの事例をみても、数字で計れないもの、つまり「人をワクワクさせる」コトがその契機となっている。「人がワクワクする装いとは何か」を再定義し、提案することが、この不況を脱するために必要であろう。

 一方で、そうしたことも考えず、サステナファッションの如く、草や木を使って服をつくったり、ユニクロの真似をして防寒着をつくったりしている多くの企業の現実をみると、このまま日本からファッションは消えてなくなるのではないかという危惧も、残念ながら抱かざるを得ないのも事実である。

 本日はつれづれに思うことを話したが、不況にあえぐファッション業界の方は今一度、消費者の購買リテラシーが向上するなか、低収益から自社が脱却を図ろうというとき、一体どの領域で戦うべきかを考えてほしい、ということである。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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