消費二極化でアパレル企業は「どの領域」で戦うべきか?立ち返るべきファッションの本質とは
二極化する衣料品 増える高所得者と減る中間層
次に、「価格が二極化」する問題に話を移したい。
「自己責任」的価値観が進む中で、目端が利く若者は早くから効率よい学びを行い、投資銀行やファンドなどに身を投じ、数億、数十億円という金を個人で手に入れ、賃金の上がらない多くのサラリーマンに大きな差をつけている。一方でDXの進展に伴い逆の現象も起こる。雇用とトレードオフの関係にあるDXが進むことで、高い付加価値を出せない多くの人材はあぶれていくということだ。つまり、単純作業の労働者と付加価値の高い人材への二極化がいっそう進むということだ。つまり、我が国のこれまでの消費、そしてファッション産業をけん引してきた中間層が激減していくということである。
そうしたなかアパレル市場が1920年の15兆円から約半分の7.5兆円にまで縮小しているのは、人口減少以上に、SDGsにより服を買うサイクルが減ったこと、単価の下落(1990年に6848円 1から、2019年に3202円、環境省「サステナブルファッション」より)と外資SPAやユニクロによる市場シェアの拡大による競争負けである。
さらに、今年は中国、韓国企業が日本列島を静かに襲い、顧客を奪っている。アダストリアが「グローバルワーク」をリーズナブル価格にした「スマイルシードストア」を立ち上げたが、これは正しい判断だと思う。既述の通り、日本の経済は沈没し、もはや日本人の大多数が当てはまっていた「中間価格帯」というセグメントは存在しない。
ピラミッドの一番上は、外資のスーパーブランドを買うだろうし、いまや日本人の大多数を占める低価格帯(実は、こここそ世界の標準価格である)は、中国Sheinに4000人の人間が並んだことでも明らかだ。本当は、タイミング的にも話題的にも、アダストリアが買収した「フォーエバー21」こそ、「安くて買い回しができるブランド」という認知が世界中になされているわけだから、アダストリアはここに低価格帯をつくる技術をもってくるべきだったのではないかと思う。
さて、先日私宛に、日本の工場から連絡がきて「河合さんが紹介した工場が倒産したよ」といきなりいわれてしまった。私はコンサルティング先で倒産した企業がないため、よく調べてみたら、「単に本を読んだ人がご紹介をしてくれただけ」だった。
しかし、私はその連絡をくれた工場が気になり「どことお付き合いをされていますか」、と聞いたところ、名前は言わないが、いわゆるゾンビブランドばかり出てきた。結局、自分たちが売れているブランドや改革をしている企業はどこなのかを調べもせずに「最近、景気が悪いな」と言っているだけなのである。今、日本のアパレルはアフターコロナの反動で、ひとときの安堵を得ているだけで、夏から秋にかけてはコロナ前に戻るどころか、もっと苦しい地獄が待っている。
河合拓氏の新刊、大好評発売中!
「知らなきゃいけないアパレルの話 ユニクロ、ZARA、シーイン新3極時代がくる!」
話題騒然のシーインの強さの秘密を解き明かす!!なぜ多くのアパレルは青色吐息でユニクロだけが盤石の世界一であり続けるのか!?誰も書かなかった不都合な真実と逆転戦略を明かす、新時代の羅針盤!
河合拓のアパレル改造論2023 の新着記事
-
2024/11/07
同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ -
2023/12/26
「低価格×デザイン」だけではない しまむら好調、もう1つの理由とは -
2023/12/19
衝撃!SPA業態そのものには優位性がない、本質的な理由とは -
2023/12/12
日本のアパレルは勝てない!Z世代起点にするDholiCのビジネスモデルを解明! -
2023/12/05
半分以上のビジネスパーソンが勘違い!キャッシュフローと運転資本を正しく理解する方法 -
2023/11/28
仕事激変で商社の競合はコンサルに!人生を自分で切り開くための方法とは
この連載の一覧はこちら [49記事]
関連記事ランキング
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2024-10-22事業再生、「自ら課題解決する」現場に変えるための“生々しい”ノウハウとは
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販