24年もっとも上昇/下落した小売株上位20!25年の小売株、4つの注目点とは

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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。今回は2024年の小売株を振り返り、株価上昇率トップ20銘柄とワースト20銘柄の顔ぶれをみていくとともに、4つの注目ポイントを通じて、2025年の小売株望したいと思います

2024年は小売株の当たり年!

 2024年の小売株全体は当たり年でした。

 小売株全体の動きを示す小売株価指数は、2022+8.8%、2023+15.8%、2024+21.7%と3年連続で上昇しました。しかも2024年は東京証券取引所全体の値動きを示すTOPIXの上昇率+17.7%を上回るパフォーマンスでした。

 小売業は一般的に産業全体の変動性に比べて業績が安定的であることから、株式市場では「ディフェンシブ」と呼ばれています。小売業の業績が安定的であるためその株価も安定的に推移するという意味ですが、見方を変えれば株式市場全体が大幅に上昇する局面では小売株価指数がこれに追いつくことが難しいことになるはずです。しかし2024年は通念とは逆に小売株にとって非常に良い一年になりました。

2024年のベストパフォーマー 20銘柄

伊勢丹新宿店外観

 2024年の株価上昇率トップ20をリストアップしましょう。便宜上、2024年末の株式時価総額が1000億円以上の銘柄を対象にしています。

コード 銘柄名 2024年騰落率%
3099 三越伊勢丹ホールディングス 78
3064 MonotaRO 72
3086 J.フロント リテイリング 64
9983 ファーストリテイリング 56
7453 良品計画 56
3092 ZOZO 55
8219 青山商事 50
8242 エイチ・ツー・オー リテイリング 49
3046 ジンズホールディングス 37
3382 セブン&アイ・ホールディングス 32
2726 パルグループホールディングス 32
8233 高島屋 31
2670 エービーシー・マート 30
2791 大黒天物産 28
7419 ノジマ 28
7532 パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス 27
2659 サンエー 27
3048 ビックカメラ 26
7550 ゼンショーホールディングス 22
8279 ヤオコー 17

 総じて業績が堅調な企業が並んでいます。業績を牽引した、あるいは株価を牽引した要因を整理すると次のとおりでしょう。

  • インバウンドの恩恵:百貨店各社、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、ビックカメラ
  • 資産効果ないしファッション回復の恩恵:百貨店各社、ZOZO
  • ECプラットフォーマーとしての地歩固め:MonotaROZOZO
  • 内外成長:ファーストリテイリング、良品計画、ゼンショーホールディングス
  • 資本コスト経営の浸透:青山商事、サンエー
  • M&A(合併・買収)の標的:セブン&アイ・ホールディングス

  M&A関連の話題を除けば、インバウンド効果も含めて各社が実現したい経営戦略を実現できていて、これが業績にも株価にもつながったと言えるでしょう。

2024年のワーストパフォーマー 20銘柄

  次に2024年の株価上昇率ボトム20をリストアップしましょう。こちらも2024年末の株式時価総額が1000億円以上の銘柄を対象にしています。

ツルハドラッグ

コード 銘柄名 2024年騰落率%
3186 ネクステージ -44
3391 ツルハホールディングス -33
3222 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス -26
7616 コロワイド -24
3097 物語コーポレーション -23
2678 アスクル -21
3141 ウエルシアホールディングス -19
3349 コスモス薬品 -18
2695 くら寿司 -16
8273 イズミ -12
9989 サンドラッグ -12
9956 バローホールディングス -11
3148 クリエイトSD ホールディングス -10
7516 コーナン商事 -9
3088 マツキヨココカラ&カンパニー -9
8174 日本瓦斯 -9
9948 アークス -7
8179 ロイヤルホールディングス -6
3397 トリドールホールディングス -5
7512 イオン北海道 -5

 営業・経常利益段階で前年同期比減益である企業はこの半数程度ありますが、業績が悪くないにもかかわらず株価が冴えない企業数も相応にあります。注目したいのは、よりライフラインに近いドラッグストア、外食、スーパーマーケット・総合スーパー(GMS)の株価に冴えないものが多かったことです。特にインバウンドの恩恵もあるはずのドラッグストアの大手がランクインしていることが筆者には印象的でした。とはいえ、20%を超えて株価が下落したのはこのリストでは6銘柄にとどまっています。

小売株の課題 低PBRは解消されたか?

  次に2024年末時点で株価純資産倍率(PBR)が1倍を下回った銘柄のリストは次のとおりです。こちらも2024年末の株式時価総額が1,000億円以上の銘柄を対象にしており、株式時価総額の大きい順に並べています。

コード 銘柄名 PBR
9831 ヤマダホールディングス 0.51
8233 高島屋 0.88
8242 エイチ・ツー・オー リテイリング 0.99
8282 ケーズホールディングス 0.91
8273 イズミ 0.82
3050 DCMホールディングス 0.76
2730 エディオン 0.88
8218 コメリ 0.67
8278 フジ 0.83
3222 ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス 0.64
9948 アークス 0.79
7516 コーナン商事 0.67
3191 ジョイフル本田 0.94
9956 バローホールディングス 0.72
8276 平和堂 0.65
8214 AOKIホールディングス 0.82
8219 青山商事 0.64
9842 アークランズ 0.91

 3年前および5年前と比べると状況は改善しています。百貨店は業績回復に伴う資本効率の改善によってこの課題をほぼ解消できています。また、しまむらにおいては、業績の改善にともなって自己資本利益率(ROE)が3年連続で8%を超えるとともに配当性向を引き上げていることを株式市場がポジティブに評価しPBR1割れを解消しています。

 このように上場小売企業における低PBRという課題は解消が進んだと考えられます。しかし家電量販、ホームセンター、スーパーマーケット・GMSの一角はいまだこの課題を抱えています。これは株価にミスプライスが生じているからというよりも、ROEの構造的な低さに起因すると捉えたいと思います。

  株式市場が株主資本効率と低PBRに向ける視線は年々厳しくなっています。さらにアクティビストとプライベートエクイティが活発であることを踏まえると、こうしたサブセクターにおいて抜本的な改革が出てくるタイミングが迫っていると考えます。

2025年の小売株価指数は“お休み”?

 2024年の株式市場の動向を俯瞰しましたので、2025年の展望に話題を移しましょう。総論として小売株価指数はお休みになる可能性が高いと考えています。

 2024年は冒頭にも触れたとおり小売株価指数がTOPIXを上回るプラスのパフォーマンスになりましたが、過去10年間このようなケースは2015年と2020年に見られました。この2つのケースにおいていずれも翌年小売株価指数はマイナスのパフォーマンスになり、かつTOPIXも下回っていますので、2025年においても小売株価指数が上昇すると期待するのは経験則的に難しいと考えられます。

 当たり前の話になりますが、ボトムアップで銘柄ごとのストーリーを見ていくことが重要になると思います。

セブン&アイは?再編圧力は?
2025
年、小売株4つの注目点

(i-stock/coffeekai)

 では筆者が注目する点をいくつかご紹介します。事業戦略が奏功し順調に業績を伸ばしている銘柄というよりも、今後の「変化」の可能性のある銘柄について考えてみましょう。

 第一は、セブン&アイ・ホールディングス。アリマンタシォン・クシュタール社との統合が綺麗なシナリオだと考えますが、そうでなければ米国のコンビニ事業を立て直し、現在の財務体力を活かしながら米国で次のM&Aを進めることが良いのではないでしょうか。とはいえ、アリマンタシォン・クシュタール社とは米国の次のM&Aを巡り競合してしまうことにもなりかねないため、同社との統合に関する協議は避けられない気がします。仮に統合する場合、現在のセブン&アイ・ホールディングスの株主は現金を手渡されるのか、統合会社の株を割り当てられるのか、などスキームのゆくえも気になります。

 国内コンビニ業界ではファミリーマートが衣料品の取り扱いをはじめるなど独自色の強い戦略を展開しつつあり、ローソンはKDDIの知恵が運営に付加される段階に来ました。セブン&アイ・ホールディングスも次のステージに進む時が来たと思います。

 第二は、円安デメリット株のゆくえ。トランプ政権になりドル円相場がどうなるのか予断を許さない状況ではありますが、仮に円安が小休止したり円高に転換した場合、2021年以降の急激な円安を嫌気して株価が伸び悩むニトリホールディングス、神戸物産、ワークマン、セリアなどの銘柄の業績および株価が復活するのかも注目です。

 第三は、業界再編。先ほど触れたように一部のサブセクターは低PBRの解消が進んでいませんし、ドラッグストアも2024年の株価下落でバリュエーションが低下しています。ドラッグストアについては、コンビニで一般用医薬品の販売を解禁する方向にあることも重要な潮流です。再編に向けて外堀が埋められつつあるのではないでしょうか。

 第四は、外食のマルチフォーマット化とグローバル化の進展。海外展開といえば、サイゼリヤ、FOOD & LIFE COMPANIES、くら寿司、壱番屋などがおもに単一業態で海外展開をしていますが、最近ではゼンショー、トリドールなどが複数業態で海外展開を進めています。個人的に注目しているのはすかいらーくホールディングスです。同社は国内で『資さんうどん』運営会社を買収する一方、しゃぶ葉を中心に海外展開に力を入れています。中長期的にみて、こうした企業の業績の変化率には大きなポテンシャルが秘められていると思われるので、2025年の展開に期待したいと思います。

 以上、最近筆者が気になっている点について簡単にまとめました。

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

プロフィール

椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

記事執筆者

都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。

米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

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