人口減の北海道を深く広く開拓!コープさっぽろ異次元の成長戦略とは

文:大宮 弓絵 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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リテールメディアや健康診断…新事業も始動

 ここからはコープさっぽろの直近の注目するべき動きを挙げたい。

 成長をけん引する宅配事業では、基幹物流センターに積極投資し、18年にはノルウェー発の自動倉庫型ピッキングシステム「オートストア(AutoStore)」を、24年6月には冷凍倉庫を稼働させ、取扱品目数を最大2万5000品目まで、冷凍食品は道内最大級の品揃えを実現できる体制を整備。標準的なSMとドラッグストアの品揃えを概ねカバーし、たとえ過疎地であっても生活必需品をまとめて購買できるチャネルとして道内での存在感を高めている。

 店舗事業では、20年から「大惣菜化プロジェクト」を開始し、関東の有力SMに学び、需要が高まる総菜の商品力を向上。また、札幌市内を中心に良品計画の「無印良品」との共同出店店舗を開発し、若年層の来店獲得に成功している。

 こうした基幹事業とともに、足元では期待の新規事業が走り出している。前述した配食事業のほか、24年度から医療連携事業をスタート。コープさっぽろが医師・看護師を職員として採用し、移動健診車で道内を回り生協職員の健康診断を行う。下期には対象者を組合員にも広げる計画だ。将来的には現在、多くの企業が市場獲得をねらう健康データの活用を見据えており、購買履歴と照合させて組合員への提案を行うなど、供給高や組合員のロイヤルティ向上につなげたいとしている。

 店舗やアプリといった小売業が持つ顧客接点を活用し、広告・メディア事業を展開するリテールメディア事業については23年8月、関連会社のコープメディアを新設。ゆくゆくは独自媒体への広告獲得をめざしており、25年度には総合的な北海道の魅力を発信する新たな独自メディアの構築も計画している。

 これらの新たな動きを加速させるのが、現在推進中のデジタル改革だ。コープさっぽろでは「Slack」「Googleスプレッドシート」「Zapier(ザピアー)」「AppSheet(アップシート)」の4つのデジタルツールの組織内活用を推進。24年1月には、そのための専任チームによるプロジェクトも始動している。

 独自の成長路線を突き進むコープさっぽろは今後、どのような未来を描いているのか。将来的には、道内食品小売シェアで5割超を占める存在となることをめざしているという。

 実は、フィンランドやスウェーデンなど北欧の多くの生協はすでに国内食品小売シェアで5割超を達成している。生協は消費者である組合員が出資者である点で株式会社とは異なる。大見理事長は「(小売企業の寡占化が進むと支配されるのではないかという)資本主義社会における抵抗感が払拭され、消費者が事業を支援する動きが働く。こうした生協の事業モデルだからこその成長可能性を証明していきたい」と語っている。

 いち早く人口減が進む北海道は日本の未来の姿だ。そうしたなかコープさっぽろは中長期を見据えて、既存事業の競争優位性構築、さらには生活者の課題解決を起点とした事業開発によって、消費者にとってなくてはならない存在になることで、持続的成長を実現しようとしている。その取り組みと姿勢、さらに生協の事業モデルは、全国の小売企業に大きなヒントを与えてくれるはずだ。

組織概要

本部所在地 北海道札幌市西区発寒11条5-10-1
創立 1965年7月
出資金 897億7825万円(24年3月)
職員数 正規2461人、専任2415人、パート・アルバイト1万598人(子会社含む数値:24年3月)

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大宮 弓絵 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

1986年生まれ。福井県芦原温泉出身。同志社女子大学卒業後、東海地方のケーブルテレビ局でキャスターとして勤務。その後、『ダイヤモンド・チェーンストア』の編集記者に転身。

最近の担当特集は、コンビニ、生協・食品EC、物流など。ウェビナーや業界イベントの司会、コーディネーターも務める。2022年より食品小売業界の優れたサステナビリティ施策を表彰する「サステナブル・リテイリング表彰」を立ち上げるなど、情報を通じて業界の活性化に貢献することをめざす。グロービス経営大学院 経営学修士

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