カインズ(埼玉県/高家正行社長)は2月29日、同社初となるマフィン専門店「CBマフィン」をオープンさせた。場所は大阪市内の中心市街地・梅田にある「ハンズ梅田店」の一角。どのようなねらいがあってマフィン専門店を出店したのだろうか―。
なぜHC店舗でマフィン?
ホームセンター(HC)とマフィン―。
一見、不思議な組み合わせだなと思う人も多いだろう。しかし、HC最大手のカインズとマフィンの歴史は意外と長い。時系列を振り返ってみよう。
2000年以降、小売業界全体でリアル店舗のあり方に注目が集まり、ただ「モノ」を売るだけではなく「コト」を売ることや、顧客の体験価値を高める施策に取り組む企業が増えた。その課題にカインズは先駆けて取り組み、12年に本部内でカフェの実験店舗をオープン、翌13年に「カインズ千葉ニュータウン店」(千葉県印西市)に「カフェブリッコ」の1号店を出店した。
1号店のコンセプトは「グリーン(植物)に囲まれた空間でゆっくりコーヒーを飲みながらカインズの商品を眺め、お客さまがやってみたいこと、『夢』を膨らませてほしい、そんなワクワクを想起できる場所」で、インテリアグリーン売場とカフェを融合させた。メニューは、最初はコーヒーだけで、その後、事業をスケールさせるためにフードメニューも提供するようになった。
初めからマフィンにたどり着いたわけではない。素材がおいしいもの、手ごろなもので気軽に本格的な味を楽しめるもの、「DIYを感じられる」ような手づくり感のあるもの、といったコンセプトを取り上げ、それらに合致する候補のフードメニューがいくつか挙がった。実際にメーカーから焼き菓子を取り寄せたほか、パン、ドーナツ、たい焼き、ピザなどさまざまなメニューを試行錯誤した。
「マフィンにたどり着いたのは、限られた店舗面積でできて、粉をこねて焼くというシンプルな手法にもかかわらず、本格的な商品ができることが決め手だった」とカインズの飲食事業を統括するカインズフードサービス(埼玉県)の須田昌広社長は振り返る。テイクアウトが多いので、冷めてもおいしいものであること、ベースができれば、フレーバーを変えるだけで商品の種類を増やすことができることも魅力的だった。
そして15年4月、「カインズ鶴ヶ島店」(埼玉県鶴ヶ島市)にマフィンを取り扱う第1号店が誕生した。なお同店は時間消費型の「次世代型スーパーホームセンター」のトライアル1号店で、カインズの中でもトップクラスの繁盛店となっている。カフェブリッコはインテリアグリーンとカフェを融合した「カフェ&ガーデン」コーナーを構成する上で重要な役割を担っている。
カインズ発のジャパニーズマフィンとは?
実際にカフェブリッコでマフィンを食べるとわかるのだが、カインズのマフィンは2つの意味で市販のマフィンと一線を画している。
1つは冷めてもパサパサにならず、しっとりした食感を維持している点だ。それは使用している粉の原料に秘訣がある。マフィンの原料となる粉は当初は市販のものを使っていたが、より品質を高めるために特注のものに変更。さらに粉、砂糖といった原材料の配合も試行錯誤して、焼いてから時間がたっても食感を維持できるように改良した。
2つ目の特徴は、一般的にマフィンは「アメリカンマフィン」と「イングリッシュマフィン」の2つに分類されるが、その両方と異なる点である。アメリカンマフィンはカップケーキのような焼き菓子で、ボソボソした食感が特徴的。一方イングリッシュマフィンは発酵させ、しっとりしている食事向けのパンを指すことが多い。
「カインズのマフィンは両者のいいとこ取りをした『ジャパニーズマフィン』だ」と須田社長は話す。老若男女問わず食べやすいかわいいサイズ感、見た目にもこだわった。
その後も商品力を磨き続け、翌16年には濃い抹茶・ほうじ茶の販売をスタート。地元農家から直接仕入れた果物を使ったオリジナルメニューや地域限定フレーバーを開発してきた。コロナ禍では、セントラルキッチンの実験やテイクアウト商品の強化などにも取り組んできた。そういった取り組みの結果、順調に店舗数を拡大し、24年1月末時点で62店舗を展開している。
大阪府内の企業と連携
では今回の「CBマフィン」はカフェブリッコと何が違うのか。
あらためてCBマフィン1号店の概要を見てみよう。
地下鉄御堂筋線「梅田」駅から徒歩2分という大阪市の中心市街地・梅田のど真ん中にある「ハンズ梅田店」の10階の一角に出店した。面積はカフェブリッコの2倍以上で、54席の飲食スペースを有する。
店舗入口には店内で焼成したマフィンを約20SKU並べているワゴンを配置。お客が四面から自由に購入したいマフィンをピックアップし、注文カウンターでドリンクや軽食メニューと一緒に決済できるようにしている。マフィンのほか、ドリアやサラダセットなどの軽食メニューも提供する。「カフェでもDIY」をコンセプトに、お客が自分でお茶をたてる体験型のサービスも導入した。なお、CBマフィンの「CB」はカフェブリッコの略である。
同店が従来のカフェブリッコと異なる点は大きく2つある。
1つはカインズの店舗外に初めて出店したことである。「郊外に出店しているHC店舗だけでは限界がある。大阪の都心部でジャパニーズマフィンを体験してもらう新拠点にしたい」とカインズフードサービスのマーケティング・新業態開発部部長の中元雅也氏は話す。CBマフィン1号店を成功させることができれば、カインズ店舗外での単独出店も含めて出店戦略の幅を一気に広げることができる。
もう1つはカフェではなく、マフィン専門店を打ち出している点である。キラーコンテンツとして「マフィン」に焦点を当て、SKU数もカフェブリッコの2倍の約20SKUに増やした。
お菓子として食べられる「スイート生地」のマフィンだけでなく、従来品と比べて糖質を40%以上カットした糖質低減生地を使った「ポテトサラダ」や「アスパラベーコン」といった「おかずマフィン」も販売する。米粉生地を使った「米粉プレーン」「米粉抹茶プレーン」もCBマフィン限定のオリジナル商品だ。
大阪府内の地元企業と連携した商品開発にも取り組む。「ジャパン コーヒーロースティング チャンピオンシップ」で優勝した「心斎橋焙煎所」のプロフェッショナルが今回のために焙煎したオリジナルの豆を使ったスペシャルティコーヒー「CBブレンド」を限定メニューとして販売。カフェインレスの「デカフェコロンビア」も新商品だ。米粉マフィンは大阪在住の「米粉マイスター」と連携し、商品開発に取り組んだ。
「地元企業だけでなく、農家や生産者の方からも期待されている。第一次、二次、三次産業をコーディネートした六次産業化の一環として、マフィンを軸にまち全体をつなぐ役割を果たしたい」と須田社長は説明する。
HCとマフィンは一見、まったく関係のない2つの領域だ。しかし、カインズによるカフェブリッコとCBマフィンを見ると、リアル店舗としての魅力、顧客接点を考える上で、なくてはならない存在になりつつある。今後、CBマフィンで実験したことを既存のカフェブリッコにも生かすなど、さまざまなチャレンジを行うことで、カインズのリアル店舗の価値向上に貢献していくだろう。