イオン、ツルハの株式追加取得の意向を表明ーー。2024年1月29日、イオンはツルハホールディングス(以下、ツルハ)の株式を、オアシス・マネジメント・カンパニー・ リミテッド(以下、オアシス)が運用するファンドから取得することについて、オアシスとの間で独占的に交渉を開始すると発表しました。
オアシスとツルハ経営陣との攻防及びツルハのMBO(経営陣による自社買収)検討については過去に取り上げてきましたし、現時点での当事者それぞれの最新の思惑はわかりかねる点もあることから深い入りは避けますが、本件が最も高い確率で想定された展開だと少なくとも言えるでしょう。イオンがツルハを持分法適用会社へ格上げする道筋が見えてきました。今回は、今後の展開について考えていきたいと思います。
業界集約の起爆剤に!
資本市場の一義的な注目点は、これがドラックストア業界の再編の新たな契機になるか、ということだと思います。
ドラッグストア事業は、イオンにとって相対的に収益性が高い稼ぎ頭の一つであり、人口動態を踏まえると今後もその重要性が高まっていくと考えられます。ただし、販売規制緩和の可能性も否定できず、さらに業界集約もまだ十分に進んでいない状況ですので、イオンとしては業界再編の主導権を握り続けることが必須と考えているはずです。したがって、イオンの連結子会社であるウエルシアホールディングスとの一体運営が進むとの観測は至極当然と思われます。ウエルシアホールディングスとツルハの売上を単純合算すると2兆円になります。
イオン自身もドラッグストア業界でさらにポジションを高めたいと考えるでしょうし、マツキヨココカラ&カンパニーのように統合の成果が如実に顕在化した事例もあります。今後ドラッグストア業界では玉突きのような再編が進むと思われてなりません。
このような展開は、集約余地が残りかつ資本効率が低い業界、例えばホームセンターや家電量販などにとっても大いに刺激になると思います。
親子上場のあり方が問われる
筆者もこのような業界再編ストーリーに蓋然性を感じます。
そして、同時に筆者が気になることは、これが「イオンの親子上場の在り方」に一石を投じるか否かです。
ツルハのケースでは、イオンがオアシスの株式を引き取ってもその持分は26%程度(オアシスの保有持ち分は約13%)と言われ、3分の1の議決権には足りないようにみえます。イオンは過半の議決権を確実に握るまではツルハの株主であるアクティビスト達(アクティビストはオアシス以外にもいる)とのコミュニケーションにリソースを割くことは避けられないでしょう。結局のところ、イオンが主体的にドラッグストア事業を再構築し、イオンに有利に業界再編を主導したいのであれば、財務体力次第ではありますがツルハの議決権の3分の2以上、実質的には完全子会社化することがシンプルだと思います。
そして、イオンの持分が50.5%程度で親子上場しているウエルシアホールディングスにも当てはまる話です。
イオンは、今回のツルハの件で、親子上場にある中核子会社を順次完全子会社化していくという決断に実質的に迫られているのではないでしょうか。
24年は日本企業の親子上場解消の
最終ラウンドになるかもしれない
一部の企業では金策を兼ねて親子上場を進めている事例もありますが、大局的に見ると親子上場は解消の方向にあります。日立のように、完全子会社化と完全分離との線引きをしっかりやり、中期的に重要な子会社は100%親会社の管理のもとで事業ポテンシャルの最大化を図るという方針を資本市場は評価していると思いますので、他社も多かれ少なかれこれに倣っていくと思います。
小売業界でいえば、イオングループが親子上場による連邦経営を良しとしてきたわけですが、ツルハの一件で経営方針に変化が出てきて不思議はありません。
そのほか、三菱商事とローソンの親子上場のあり方も早晩スポットライトを浴びると考えます。
親子上場の整頓が最終局面に入るのか、今年の重要テーマになりそうです。イオン、三菱商事に注目したいと思います。
プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、