新しい生活様式下で消費者に「価値」を提供
食品小売業界のなかでもコンビニエンスストア(CVS)は、「変化対応力」によって成長を遂げてきた業態だ。これまでもおにぎりや金融サービス、カウンターコーヒーなど、生活者のニーズを巧みに商品やサービスに取り込み、市場を開拓。2011年の東日本大震災では生活インフラと認識されさらに利用者を増やし、店舗数を拡大させた。そして今回、われわれの生活を一変させたコロナ禍でもCVSはあらためてその強さを証明した。
新型コロナの感染が拡大した2020年。日本フランチャイズチェーン協会(東京都)によると、CVSの市場規模は対前年比4.5%減の10兆6608億円と、同協会がデータを公開している05年以来、初めて市場縮小に転じた。コロナ禍の外出自粛によってオフィス街や商業地立地の利用が激減したことが要因で、とくに既存店客数が同10.2%減まで落ち込んだ。
しかし、新型コロナが収束しつつある今、CVSは見事なV字回復を見せている。22年の市場規模は同3.7%増の11兆1775億円と、コロナ前の2019年(11兆1608億円)を超える水準にまで戻っているのだ。
なぜCVSは回復できたのか。その要因はやはり変化対応力だ。大手3社を中心にコロナ禍での消費者の変化に迅速に対応し、新しい生活様式下での日常需要の取り込みや付加価値の提案を行ったことにある。
業界首位のセブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長:以下、セブン-イレブン)は、変化した消費ニーズに対応する新レイアウトを早期に導入するとともに、「住宅」「都市」「郊外」と新しく定義した立地区分で地域対応を推進。新型コロナ感染拡大直後の20年も売上減を最小限にとどめた。また、旅行が控えられるなか「北海道フェア」や「イタリアンフェア」などのフェアを高頻度で実施し、専門店やシェフ監修の付加価値ある商品を提案。さらには100円ショップ「ダイソー」の商品など非食品も拡充し、ワンストップショッピングの利便性を高めた。その結果、店の“稼ぐ力”の指標といわれる22年の平均日販は67万円と01年以降で最高となり、ファミリーマートとローソンに15万円近くの大きな差をつけるまでになっている。
ファミリーマート(東京都/細見研介社長)は国内事業に経営資源を集中させ、CVS事業の基盤強化を推進。営業・商品・マーケティングの連携を強化し、定番商品のブラッシュアップや、プライベートブランド(PB)の新シリーズ「ファミマル」への一本化、「ちょっとおトク」を訴求するプロモーションなどに取り組んだ結果、同社も22年の全店平均日販が53万4000円と過去最高を記録した。
ローソン(東京都/竹増貞信社長)はグループ横断組織「ローソングループ大変革実行委員会」を立ち上げ、日販改善をめざす「店舗理想形追求」「商品刷新」など12のプロジェクトを同時並行で着実に実行。1店当たり加盟店利益ではコロナ前の水準を上回っている。
リテールメディアと配送事業を一気に加速
こうして回復を遂げたCVSだが、すでに国内店舗数は5万6000店を超え、店舗間競争が激化するなか、かつてのような大量出店による成長は難しいことに変わりはない。そんななか各社は、CVSの店舗網を生かした新しい成長施策を始動させており、コロナ禍が収束した23年はその取り組みにアクセルを踏み込んでいる。
セブン-イレブンは、スマホで受注した商品を最短30分で配送する「7NOW(セブンナウ)」サービスを一気に広げる。現在すでに約5400店(23年5月末)にサービス導入を推奨済みで、これを23年度中には1万2000店へ、24年度には全国の店舗に拡大することをめざす。
同じく店舗を活用した配送サービスでは、ローソンは「UberEats(ウーバーイーツ)」らデリバリー事業者4社との提携のもと、店舗商品の即時配送の対応店舗を46都道府県3558店舗(23年2月期末)まで拡大している。全サービス提供エリアを合わせた人口カバー率はすでに7割超となっており、さらに対応店舗を増やしていく方針だ。
そしてCVSの新たな成長領域として業界関係者の耳目を集めているのがリテールメディアだ。全国の店舗網や自社のスマホアプリを“メディア”に、広告やマーケティング事業を展開する。なかでも先行投資に動いているのがファミリーマートだ。細見研介社長は「リテール広告・メディア領域で日本のリーディングカンパニーをめざす」と宣言し、23年にデジタルサイネージの導入店を約1万店へ拡大させる。すでにおよそ4600店(23年6月末)に導入済みで、導入店では買い上げ客数や販売数量が増える効果が出ており、手応えを得ている。
セブン-イレブンも自社アプリでの広告や、購買データを活用した外部メディアへの広告配信などによる「メディア収入」を、25年度までに30億円を超える規模に成長させる目標を掲げる。同社がまず注力するのが「セブン-イレブンアプリ」での広告配信で、22年9月に専門部署「リテールメディア推進部(現在はマーケティング本部)」を新設し、本格的に事業を開始している。
全国に店舗網を持ち、多くの人が日常的に来店する業態であるCVSはリテールメディアにおける競争優位性が高いといわれており、同領域において小売業界のなかでもCVSが存在感を発揮していくのか注目である。
新フォーマットにエリアカンパニー制…地域対応を高度化
コロナ禍を経たCVSの動きとしてもう1つ押さえておきたいのが、次なる売上成長のカギに地域対応を挙げ、より戦略的に日常的な需要の深掘りを始めていることだ。
セブン-イレブンの永松文彦社長は、「脱ワンフォーマット」を掲げ、立地や地域ごとのニーズに合わせて店の品揃えを変える方針を明確に打ち出している。その一環として23年には、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長)グループのスーパーストア事業で培ってきた知見やネットワークとCVSを融合させた新フォーマット「SIPストア」の出店を発表。売場面積を100~150坪に、取扱品目数を約5000~6000品目に広げ、イトーヨーカ堂(東京都)の生鮮や冷凍食品のPBなどを扱う。24年2月期中には検証のために異なる立地で複数店出店する計画で、まずは千葉県でテスト店舗を開業予定だ。生鮮食品まで品揃えを広げることから食品スーパー(SM)とも競合することが予測され、同フォーマットが本格的に多店化するとなれば、商圏内の食品小売競争に波紋を呼びそうだ。
ファミリーマートも価格や品揃えの地域対応を「地域戦略」と位置づけ、23年3月からは、「地区MD部」と本部で連携して、地域ごとの現状をマトリクスで可視化し、より地域に即した価格対応と品揃えを実践する試みを始めている。
ローソンは、23年から全国を計8カンパニーに分割する「エリアカンパニー制」に移行。各エリアに営業・商品・店舗開発機能を委譲し、エリアごとに地域に密着した事業運営を行う体制を整えた。すでに店内調理する「まちかど厨房」では、計6種類の銘柄米を地域の嗜好に合わせて使い分けるなど細かい対応を行っている。
こうした地域に密着したCVSの強さを証明しているのがセコマ(北海道/赤尾洋昭社長)だ。大手CVSに比べて規模こそ小さいものの、地盤とする北海道で地域に密着した商品・サービスを提供し支持を得続けている。昨今では、地元生産者との継続的な関係を生かした商品開発や、地元のプロスポーツチームとの協業など、同社の取り組みは地域との連携によってCVSの可能性はまだまだ広がることを示唆している。
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このようにコロナ禍から復活したCVSはすでに次なる成長に向けて大きく動き出している。
UBS証券アナリストの守屋のぞみ氏は、国内人口が減少するなか中長期的にCVSが成長するためには「商品・サービスの幅を広げることが、店舗網を存続させる必要条件」と指摘する。その方向性は、商品の幅をSMや外食の領域まで拡大したり、デリバリーにも対応したりと、生活者のあらゆる日常需要を取り込むことだ。新規事業による新たな収益源が加わってくれば積極的な投資も可能になる。
CVSがコロナ禍から体力を回復させた今、食品小売業各社は再びマークするべき存在と認識し、対策を講じる必要があるだろう。
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