着物業界はピークの6分の1に縮小 デジタルを使った最大手やまとの切り札とは
ハレ着から日常着へ
近年は、従来の様式に囚われない自由な発想で、着物をデザインするケースが増えてきた。
「ユニクロが商品開発力でライフウェアという新ジャンルを開拓した例があります。新たな価値観を生み出すべく、弊社も商品開発に力を入れるようになりました。『非日常』『特別』といった着物だけではなく、カジュアルに日常に取り入れてもらいたい」(永井氏)。
2018年、同社は日本のアウトドアメーカー「スノーピーク」とコラボし、帯なしで着用できる「OUTDOOR*KIMONO(アウトドアきもの)」を発表。さらに2020年、パリのファッションブランド「agnès b. (アニエスベー)」とともに、着物と帯、アニエスベーの定番アイテムであるコンビネゾンを打ち出した。
「従来、着物屋が関われなかったアパレル業界とコラボすることで、企業としての深みが増しているのではないかと考えています」(同)。
ファッションとしての着物
そもそも着物は、サステナブルな衣服だ。サイズが合わなくなれば「お直し」して代々受け継がれていく。生地が劣化すれば座布団やお手玉、小物にリメイクする。
それゆえ、ファッション業界のようにシーズンごとにトレンドをつくるという概念は存在しなかったが、近年は、着物のファッション化が進みつつある。同社が展開する「KIMONO by NADESHIKO」「Y. & SONS」などでも、春夏・秋冬のシーズンごとにメッセージ性、スタイルやストーリーを考えるようになった。
2019年4月、矢嶋孝行氏が代表取締役社長に就任すると、企業ビジョンも刷新された。新ビジョンは、「きものでエキサイティングな世の中をつくる」。企業体制にも、メスを入れていった。
「従来の着物業界には、セールスを担う営業部隊が”強い”との企業構造がありましたが、『今後はデザインが重要だ』と周知させていきました。社員にビジョンを共有するだけでなく、新卒でデザイナーを雇用し、上層部をデザイン部門の長に配置するなど、3年かけて社内変革を進めていったのです」(同)。
店舗での販売方法もブランドによって変えていった。例えば、若年層をターゲットにする「KIMONO by NADESHIKO」では、必ずしも試着に誘導しない。まずは、商品を眺めたり、触れてもらって、着物とはどういうものかを知ってもらう。そこから着用機会拡大につながればと期待している。