ソフトブレーン・フィールド(東京都/木名瀬博社長)は、全国に約80万人の協力モニターを擁し、日本初のレシートによる購買証明付き・購買理由データベース「マルチプルID-POS購買理由データPoint of Buy(ポイント・オブ・バイ:以下、POBデータ)」を有している。月間1100万枚のレシートを収集し、リアル消費者購買データベースとしては国内最大級の規模となる。(提携サイト含める)
このPOBデータと協力モニター(以下、POB会員)へのアンケート調査を活用すれば、消費者から見た小売りチェーンの実態を明らかにすることができる。本連載では毎回、業界で関心の高いテーマを設定して独自調査を実施し、その結果をレポートする。
現在、食品スーパーの販促の在り方が大きく変化している。新聞の購読者数は減少の一途にあり、また新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下で過度な集客を控える必要が生じたことを機に、チラシ販促を減らし始めた食品スーパーは多い。
そうしたなか、CRM(顧客関係管理)強化につながる施策として活用が進んでいるのがスマホアプリだ。今回はPOBデータによって、とくにアプリの利用率が向上しているチェーンを調査し、その秘訣を明らかにする。
食品スーパーでは6割超が
メーン使いの店のアプリを利用
図表1は、公式アプリをリリースする総合スーパー2社(イオン・イトーヨーカドー)、食品スーパー6社(ベイシア・マルエツ・ライフ・サミット・ベルク・ヤオコー)のメーン利用者に、そのチェーンの公式アプリを利用しているか問い、利用率が高かった順にまとめたものだ。
結果、アンケート対象者の平均年齢が50歳とやや高めでありながら、アプリ利用率は総合スーパーでおよそ7割(2社平均:71.2%)、食品スーパーで約6割(6社平均:63.4%)と高い結果となった。総合スーパーはアプリの開発・利用促進に早期から取り組んできた背景もあり、食品スーパーよりも利用率が高い。
ソフトブレーン・フィールドの調査によると、ドラッグストアチェーンのアプリ利用率は、57.5%(公式アプリをリリースするドラッグストアチェーン8社のメーン利用者計3921人:平均年齢50歳を対象に2021年7月実施)だった。
つまりドラッグストアよりも日常における利用頻度の高い総合スーパー、食品スーパーのほうが消費者のアプリ活用は進んでいると言えそうだ。また、スマートフォンの普及などによって、小売業界でも、アプリの利用者はもはや若年層だけではなくなっていると見られる。
注目したいのは食品スーパーチェーンの利用率の順位だ。「利用経験あり/継続中」では、高い順に「ベイシア(79.2%)」、「マルエツ(68.3%)」、「ライフ(63.7%)」で、なかでもベイシアは利用率が約8割に達している。
「店頭での告知」は効果あり
ベイシアの秘訣は「初回特典」
次に、公式アプリを利用したきっかけについて聞くと、総合スーパーと食品スーパーの8社平均で、高い順に「店頭での告知(46.0%)」「ポイントカード連携(40.1%)」が4割を越え、その後「アプリ限定クーポン(24.7%)」「初回特典(21.8%)」「チラシ閲覧(19.2%)」が続いた(図表2)。
4割以上の利用者が回答した「店頭での告知」「ポイントカード連携」については、各社が開店時や週末などに実施している店頭での告知活動については、利用促進に効果を発揮していると言えそうだ。また、ポイントカードを財布に入れて持ち歩かなくて済むという要素は、アプリ利用の大きな理由の1つであると考えられる。
チェーン別でみると、利用率が約8割に達している「ベイシア(ベイシアアプリ:20年12月リリース)」は、「初回特典(51.2%)」が平均よりも(29.4ポイント<pt>)と抜きんでているのが特徴だ。
そこで過去の特典を調べると、アプリをダウンロードして会員登録するとアプリ上で200pt(1pt=1円として利用可)を、さらに指定期間中に買物をすると100ptをプレゼントするなど、顧客にとってメリットの大きい初回特典を提供するキャンペーンを積極的に実施しており、これがフックとなり利用者が増えていると考えらえる。
チラシ閲覧で得点付与
日常利用促す工夫が多数
次に利用率の高かった「イトーヨーカドー(イトーヨーカドーアプリ:18年6月リニューアル)」は、「チラシを閲覧(3社平均:23.4%)」が他チェーンと比較して高い。チラシを閲覧するとセブン&アイ・ホールディングス(東京都)グループの「セブンマイル」が貯まるという施策を行っていることが要因の1つにありそうだ。
同じく「チラシを閲覧」が8社平均より7.1ptも高いサミットでは、アプリ上であれば配布前日からチラシを閲覧できるほか、表示の拡大・縮小や、表面・裏面の切り替えが容易など、アプリ上でチラシが見やすいように工夫されている。これらの施策は、日常的なアプリ利用を促せるとともに、販促を紙のチラシからアプリ上へ移行するのに有効な施策と言える。
さらに、食品スーパーで2番目に利用率の高い「マルエツ(マルエツチラシアプリ:21年2月リニューアル)は、「ポイントカード連携(51.0%)」が8社平均よりも10.9pt高い。提携する「Tポイント」がアプリ内で貯められとともに、毎日挑戦できるTポイントが貯まるゲームを提供している点などが高評価につながっていそうだ。
利用促進で重要となる
3つの基本機能を磨く
最後に、各チェーンのアプリで「利用する機能」について聞くと、平均値で高い順に「クーポン(71.6%)」、「チラシ閲覧(50.1%)」、「会員証/ポイントカード(47.4%)」となった(図表3)。
回答が図表2の「利用のきっかけ」と類似するため、この3つの機能をいかに「簡単で使いやすくするか」が、アプリ活用を促すための肝であり、消費者がもっとも望む基本的な機能であると思われる。
なかでもベイシアの「ベイシアアプリ」では、軌道後最初に見える画面で、ポイントカード、決済(PayPayのみ連携可)、アプリ限定価格商品、おすすめ商品が一覧で見られるように工夫されている。利用者にとっては、今お得な商品は何かわかりやすく、決済時に会員証やクーポン提示の切り替えがスムーズであると推測でき、これが高い利用率につながっていると想定される。
そのほかアンケートでは、アプリ利用者に「使っていて不便だと感じること」を尋ねた。結果、「アプリがスムーズに開かない」「うまくログインできない時がある」「レジでクーポンを掲示するまでに時間がかかる」などが多く挙がった。操作性の向上はもちろんのこと、店舗におけるネット環境の状態も今一度確認する必要がありそうだ。
【調査概要】
図表1・2・3
調査対象:全国のPOB会員アンケートモニター 1634人
調査日時:2021年7月7日~12日
調査方法:Web媒体「レシートで貯める」「レシート de Ponta」を利用したインターネットリサーチ
調査機関:ソフトブレーン・フィールド
【執筆者】
山室直経(やまむろ・なおつね)
神奈川大学経営工学科卒業。パソコンメーカーを経て、米リサーチ会社にてコンサルティング業務を学ぶ。その後、大手家電量販店子会社のパソコンメーカーで経営企画室に従事。計数管理とERP導入による業務改善などのプロジェクトを経験した後、2012年3月ソフトブレーン・フィールド入社、消費者購買データ事業の新規立ち上げを行う。
現在はデータを軸とした事業開発と当社の基幹システムのDX戦略を担う