メニュー

店舗のメディア化進める新会社をファミマと伊藤忠が設立へ 4月までに約3000店舗に大型デジタルサイネージを導入

8月19日、ファミリマート(東京都/細見研介社長)と伊藤忠商事(東京都/石井敬太社長)は、デジタルサイネージを活用したメディア事業展開のための新会社設立について合意したと発表した。新会社は10月にも事業を開始する予定で、出資比率はファミリーマートが70%、伊藤忠商事が30%となっている。新会社が担うメディア事業とはどのようなものか。同日行われた記者会見の様子をレポートする。

映像コンテンツを大型サイネージで配信

 今回発表された新たなメディア事業の大枠は次の通りだ。ファミリーマート店舗のレジ後ろ、上方に大画面のデジタルサイネージを新たに設置。レジに並ぶお客から見えやすい場所で、売れ筋商品の紹介やエンタメ情報、ニュース、ローカル情報、アート作品など、さまざまな映像コンテンツを音声付きで配信し、顧客のリアル店舗での体験向上や広告収入につなげるものだ。22年4月までに東京・名古屋・大阪の約3000店舗で導入、さらに今後3年間でデジタルサイネージが設置可能な全店舗への導入完了をめざす。

 この取り組みは、約1年に渡って首都圏と沖縄県の一部、計100店舗で実証実験を進めてきたものだ。実証実験では、顧客がデジタルサイネージを見た率(視認率)を出口調査とサイネージと共に設置したAIカメラで集計。電車などの交通広告の視認率が約40%といわれる中、最大70%という非常に高い効果を示した。また、POSデータの分析でも、広告を放映した商品は平均的に2割強売れ行きが伸びており、商品によっては7割伸びたものもあるという。これらの良好な結果を受け、本格的な事業展開を決めたかたちだ。

新たな成長戦略の柱として注力

 メディア事業について、ファミリーマート 常務執行役員新規事業開発本部本部長の高橋順氏は、「(メディア事業は)ファミリーマートの新たな成長戦略の大きな柱の一つ」と話す。全国に約1万6600店舗を展開、毎日1500万人が来店するファミリーマートの強みを最大限に活かし、デジタルとリアルを繋ぐ新しいマーケティングを実現するとしている。また、広告の受注やターゲティング広告配信の面では、20年10月に伊藤忠商事とファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェントの4社が共同で設立した、小売事業者の購買データを活用した広告配信事業を行うデータ・ワン(東京都/太田英利社長)とも協力する。

 新会社は23年に黒字化を目標に据える。スタート当初はまず、デジタルサイネージを実際に設置する加盟店側へ設置手数料として月額を支払い、広告収益は新会社側の収益とする。設置費用や電気代は新会社が負担し、軌道に乗れば加盟店側の収益面も見直す予定だという。メディア事業には、国内で飽和状態になりつつあるコンビニエンスストア業界で、リアル店舗の価値を高め、加盟店に新たな収益を上げてもらうという意味合いも含まれている。コロナ禍での客数減少や高い賃料などに苦心する加盟店も少なくない中、デジタルサイネージを設置するだけで既存の顧客に訴えかけ収益につなげる、強力な一手としたい考えだ。さらに、将来的にはファミリーマート店舗以外への導入計画もある。食品スーパーやドラッグストアなどの小売業態のみにとどまらず、幅広い業態での導入を検討していくという。

 記者会見でファミリーマート細見研介社長は、「ファミリーマートが自社のオウンドメディアを持つということ。メディアを通じて、これまでとは全く違う新しい仕掛けを可能にしていく」と語った。9月に創立40周年を迎えるファミリーマート。次の40年の成長に向けた新たな柱の一つとして注力するメディア事業の展開に注目したい。