家電量販店「ケーズデンキ」を展開するケーズホールディングス(茨城県/平本忠社長:以下、ケーズHD)が先ごろ発表した2021年3月期連結決算は、当期純利益が対前期比約1.8倍の387億円で過去最高を記録。売上高も同11.9%増の7925億円となった。同社は創業時から「がんばらない経営」を経営方針に掲げ、それをコロナ禍でも貫いたことが業績向上の大きな要因となっている。
従業員最優先を貫く理由
多くの家電量販店にとって、コロナは巣ごもり需要と特別給付金が追い風となり、「恩恵」となった。その意味で家電量販店各社の好業績に驚きはない。
コロナ禍で業績を伸ばした多くの企業は、早くから経営改革に取り組み、とくにサービス業などでは顧客第一を徹底。顧客視点の施策を打ち続け、有事でもしっかりと結果を残した。
典型的なのは、デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。コロナ禍で売上がアップした企業は、たとえばキャッシュレス化を加速させたり、アプリでの予約システムを確立したり、コロナの感染リスクをテクノロジーの最大限の活用などで低減したりするなど、顧客の不安を取り除くことに注力し信頼を獲得。リアル店舗の「安心安全」を担保し、来店を促した。
一方、「がんばらない経営」で知られるケーズHDの方針は、従業員を最優先とすることだ。このスタンスは創業時から変わらない。その理由は、「お客さまを大切にするためには、まず従業員を大切にしなければ“本当の親切”は実現しない」と考えているためだ。実際、コロナ禍では「従業員の奮闘に報いるため」と20年6月と21年3月に特別手当を支給している。
ショッピングの主軸がリアル店舗からECにシフトする潮流にあるなか、リアル店舗で最大限に発揮される“本当の親切”の必要性はかつてより薄れていそうだが、コロナ禍でもケーズHDはリアル店舗でしっかりと“特需”をすくい上げていたのだから、従業員を最優先に考える「がんばらない経営」が有効であることが窺える。
丁寧なサービスで高額商品が好調
コロナによって、消費者の外出が控えられ、消費の場所がいわゆる住居を拠点とする生活圏へ移動した。この流れが、ケーズHDの大都市周辺のベッドタウンへの積極的な出店戦略とシンクロしたことは、ある意味でラッキーといえる。だが、これは同社が以前から市場や競合の動きに左右されず、我が道を進んできた結果でもあり、“必然”というほうが適切かもしれない。
21年3月期で大きく売上に貢献したのは、4K8Kの大型商品を中心とするテレビ(対前期比119.8%)、パソコン・情報機器(同116.9%)、冷蔵庫(同111.1%)、洗濯機(同116.7%)、調理家電(同116.7%)、クリーナー(同122.3%)、エアコン(同105.7%)など。これらは比較的高額で、しっかりと実機を確認し、スタッフからの説明を受けて買いたい商品だ。
リフォーム事業や家具販売など、家電量販店業界では経営の多角化が進むなか、ケーズHDは家電特化型の企業だ。居住地から至便の地にあり、従業員の丁寧なサービスが受けられ、売場に体験コーナーがあり、かつ「新製品が安い」。安さだけが魅力のECでは購買に踏み切れない消費者にとって、結果的に丁寧なサービスが受けられるケーズHDが最善の受け皿となり、お客を呼び込んだことは容易に想像がつく。
同社がサービス向上の肝と捉える人材に対しては、22年3月期に定期昇格・昇給に加え、体系の是正・格差の是正を実施し、給与の引き上げを行う予定だ。さらに、同社グループの人材派遣業を営むケーズキャリアスタッフ(茨城県/鈴木一義社長)では、能力あるシニア人材の再雇用も促進し、“本当の親切”を提供する地盤の一層の強化を図る。
あわせて、21年4月からは「EC商品部」を新設。21年3月期に売上が2倍に伸長したECにもしっかりと人員を割き、体制を整備する。
がんばらない=持続可能
「がんばらない経営」でコロナ下でも前進を続けたケーズHDは、19年5月に公表した中期経営計画の最終年度である24年3月期の目標を上方修正。売上高8100億円、営業利益490億円、経常利益540億円、純利益340億円とした。
先行き不透明な中での上方修正は強気にも映るが、「がんばらない姿勢」に変わりはない。同社は「がんばらない経営」について、決算発表の場であらためて説明している。
「無理をして自分以上の力を出すことは短期的には可能でも、終わりのない会社経営には適切ではありません。無理をすれば必ずその反動があります。お客さまにご満足いただくためにあるべき姿に向かって、無理をせず、正しいことを確実に実行していくことを『がんばらない経営』と表現しております」
「持続可能」がキーワードとなっている昨今。これぞまさしく、持続可能な経営の本質といえる。ただし、簡単なようだが、おそらく他社はマネできないだろう。なぜなら、この方針は続けなければ意味がないからだ。つまり、今からマネをしても、創業時から一貫して同じ方針を掲げるケーズHDとはそのぶん差が出る。継続は力なりとはまさにこのことである。同社の進撃はまだまだ続きそうだ。