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成長のため出店・インフラ整備に積極投資=ヤマザワ 板垣宮雄社長

山形県を地盤に店舗を展開するヤマザワ(板垣宮雄社長)。消費市場が縮小に向かう中にあっても、ライバルの出店は衰えない。これに対抗するため、ヤマザワもここ数年、出店・改装や物流整備など成長のための投資を積極化している。投資をどのように次の成長に結びつけるのか、板垣社長に聞いた。

売上は回復傾向も利益環境は改善せず

──高額品の販売好調が続くなど、消費に明るさも見えています。食品スーパー(SM)の経営環境をどう見ていますか。

ヤマザワ代表取締役社長 板垣宮雄
1953年(昭和28年)8月31日生まれ。78年3月日本大学商学部卒業、4月ヤマザワ入社。99年4月総務部長。2000年6月取締役就任。01年4月常務取締役管理本部長兼人事教育部長兼情報システム部長。02年5月管理本部長兼総務部長。04年4月専務取締役。05年6月代表取締役。07年6月代表取締役社長兼営業本部長。13年3月代表取締役社長

板垣 株価上昇による資産効果の恩恵を受けた消費者のマインドは明るくなっており、経営環境が好転する小売業もありますが、われわれの商売はむしろ厳しくなっています。

 たとえば、円安の影響で、食用油や小麦粉、包材などの原材料価格が値上がりしています。しかし、だからといって、当社で製造している総菜などの販売価格を上げるわけにはいきません。値入れ率は2013年5月くらいから前年に比べて低下傾向にあります。

 また、青果は、猛暑の影響で収穫量が減少し、値上がり傾向が続きました。精肉は、飼料価格の値上がりにより相場が上昇傾向で、利益が取りにくいところがありました。

 秋以降、売上は回復傾向にありますが、利益環境は改善していません。粗利益率は徐々に向上する傾向にはありますが、それ以上にコストが上昇してきています。電気料金が13年9月から値上げされ、当社の場合、単月で約2000万円増加しています。それに加えて、当社では設備投資を積極的に進めているということもあり、粗利益率が伸びていく以上に、費用が増えていく傾向にあります。今後2~3年、この傾向は続くと見ています。

──設備投資は、新規出店が中心になりますか。

板垣 おもな設備投資は、新規出店と建て替えを含めた既存店改装、食品製造・物流などのインフラの整備などです。

 これまで設備投資は、借入金を増やさずに、営業キャッシュフローの範囲内で収めるようにしてきました。20~30億円ですが、この範囲内で、出店や改装に設備投資を振り向けてきました。少子高齢化で消費市場は小さくなっていくにもかかわらず、競争相手の出店意欲は旺盛です。当社が出店をしなければ、将来的にシェアを奪われかねません。競争相手に遅れをとらないようにするために、数年前から設備投資を積極的に進める方向に舵を切りました。

 出店により店舗網が広がれば、当然、店舗を支えるインフラも整備していかなければなりません。その1つとして、食品製造子会社のサンコー食品(山形県/遠藤善也社長)の工場を、宮城県大崎市に開設する計画です。

販売計画に基づいて製造 サンコー食品の強み生かす

──宮城県に開設するサンコー食品の工場では、どんな商品を製造するのですか。

板垣 宮城県の工場は、山形県にある工場に次いで2カ所めになります。すでに用地を取得済みで、現在、何を製造するか検討しているところです。14年度には着工したいと考えています。

 食品工場では、たとえば豆腐の製造ラインだけで1億円ほどの資金が必要になります。資金もかさみますから、将来的に何を製造していくのか、それが当社にとって、競争相手と戦える商材になっていくのかを見極める必要があります。

 店舗数が増えていけば、サンコー食品の売上も伸びていきます。それに伴って仕入れ原価も下がり、連結ベースで利益が出る体質になっていきます。工場の運営効率が上がれば単価を下げることができ、それを武器に戦うことができます。これが、当社の強みの1つと考えています。

 サンコー食品は現在、豆腐・納豆・こんにゃく・油揚げ・麺類・牛乳・弁当・寿司・総菜などを製造しています。店内では出来立て、つくりたてといった、価格ではないニーズに応える商品、工場では大量に製造したほうが味の均一化を図ることができ、かつ単価の安くなるような商品をつくります。店内でつくるものと、サンコー食品の工場でつくるものと、うまくバランスをとる必要があります。

──SM業界では、製造小売のビジネスモデルを志向する企業が増えています。

板垣 製造小売は、これからのSMにとって利益の源泉になるでしょう。仕入れと販売の鞘だけで利益を残すというのは、これから難しくなっていくのではないでしょうか。原材料の供給先から相見積もりをとってコンペをすることで、仕入れ原価も下げられます。原材料の調達から手がけ、商品をつくることによって、利益を出すことができるのです。

 サンコー食品は、ヤマザワの販売部門と一体化しています。当社の担当者とサンコー食品の担当者で協議をして、特売期間、販売価格、販売数量などの計画に沿って製造していきますから、ロスも少なくなります。サンコー食品にとっては営業マンも不要ですから、営業にかかるコストも少なくて済みます。どれだけ売れるかわからないものを製造しているわけではありませんから、経費コントロールも計画的にできます。結果として、サンコー食品の利益貢献度は高くなるのです。

──プライベートブランド(PB)には、サンコー食品以外に、共同仕入れ機構のニチリウ(大阪府/夏原平和社長)の商品もあります。PB全体については、どのように考えていますか。

板垣 PBは利益貢献につながるということが大きなメリットです。現在、ニチリウ商品と自社開発商品を合わせて、全体で12%程度です。これを20%程度に引き上げていきたいと考えています。当社はSMで売上900億円規模の企業ですから、決して一定規模の仕入れ数量がまとまるわけではありません。ですから、ニチリウのPB「くらしモア」を強化して販売していこうと考えています。東北地区で、ニチリウ加盟企業は当社だけですから、ほとんどオリジナル商品のようなものです。

宮城県に在庫型センター開設へ 生鮮センターで加工機能も

──物流の整備については、どのように進めていますか。

板垣 現在、山形県にDC(ディストリビューションセンター:在庫型センター)とTC(トランスファーセンター:通過型センター)、宮城県にTCがあります。そして、生鮮センターが、山形県と宮城県にそれぞれ1カ所あります。

 11年の東日本大震災後、宮城県の物流施設が使用不能になったため、山形県の施設から商品を運びました。山形県でも停電で数日間、使えない状況に陥りました。これを踏まえ、災害リスクに備えるという点から、宮城県でも在庫を持つDCを開設する計画です。とくに、宮城県は山形県よりも店舗網が広がる方向にありますから、DCを持っていたほうがいいという判断です。県外にも店舗網が広がっていくことも考えると、宮城県から運ぶケースも出てくるでしょう。宮城県のDCは、15年10月をめどに開設する計画です。現在、運営委託業者と具体的な計画を策定中です。

 生鮮センターについては、山形県にある施設を拡張していく計画です。

──拡張する生鮮センターでは、加工を行うのですか。

板垣 PC(プロセスセンター)として、加工機能も持たせようと考えています。どこまでの加工を行うかは、店舗とセンターで作業内容や従業員、粗利益をどのように振り分けるのかといったことを含めて決める必要があります。

 粗利益をすべて店舗に振り向けるわけにはいきません。店舗で作業室などを設けずに、販売だけにする。そして、そこで働いていた従業員の一部は、PCで作業してもらうということも考えられます。現場で加工する場合は、お客さまが多ければ商品を増やし、少なそうであれば減らすというように調整できますが、PCでそういう調整は難しくなります。ですから、製造に余剰が生じ、ロス率が高くなる可能性があります。このあたりを検討する必要があるのです。

 店舗では、粗利益を取りにくい環境になってきています。商品の単価を上げようとしても、競争の中で上げにくいということもあります。そうした環境の中で、企業全体で利益を出していくことを考えた場合、センターで集中的に加工して、店舗は販売に集中するというのも1つの方法でしょう。

提案型の売場づくりで買上点数を引き上げる

──提案型の売場づくりに力を入れています。効果は上がっていますか。

板垣 ばら売りや小容量の商品が増える傾向にありますが、そうした商品の比率が高くなれば、1品単価は下がっていきます。1品単価が下がって、買上点数が同じであれば、売上は下がります。売上を下げない方策としては、買上点数を増やすことがあります。

 

 買上点数を増やすために、「たくさん買ってください」と勧めても、たくさん買っていただけるお客さまはいません。そこで、特売品の近くに、関連商品の提案を増やしていけば、買上点数は上がっていくのではないか。そんな考え方です。買上点数が増えれば、売上も維持できます。

 お客さまの家庭の冷蔵庫には、3~4日、買物をしなくても済むくらいの商品があります。それでも、商品を買っていただくためには、新しい食べ方や利便性を提案する必要があるのです。

 山形県は、福井県に次いで全国2番目に共働き世帯の割合が多い県です。買物にそれほど時間はかけられません。短い買物時間の中で、「いいな」と思っていただくためには、単に商品を並べておくだけではだめで、実際に食べてもらい、おいしいと思ってもらうことが重要です。利便性、簡便性、そしてリーズナブルな価格をキーワードに提案を強めていきたいと考えています。

 現在、夕方のピーク時間帯に、「5時の市」と称して、試食販売を強化しています。試食は、買おうかどうか迷っているお客さまの背中をひと押しする効果があります。当社の売りの1つになるくらいに徹底してやっていこうと取り組んでいます。

 上期の1品単価は前期を下回りましたが、買上点数は前期を上回っていますから、お客さまの期待に応えられているのではないかと感じています。

新規出店は宮城県中心 山形県は改装・建て替え

──今後の店舗政策は、どのように考えていますか。

板垣 出店エリアは、大きく山形、宮城、その他の3つに分けています。これから出店により店舗数を増やしていくのが、現在23店舗を展開する宮城エリアです。物流効率を考え、ドミナント出店を進めたいと考えています。一方、山形エリアは、おもに既存店舗の拡張が中心になります。子会社のヤマザワ薬品(山形県/山澤廣社長)のドラッグストアを、改装や建て替え時に併設しています。

 ドラッグストアではSMと同じ食品を販売していますから商品がバッティングします。売価を同じにするなど、調整は必要になります。しかし、お客さまの健康に対する意識が高まっていますし、食品と医薬品の買い回りのよさもあります。販促も共通化でき、ポイント還元率を高くしたりすることによる相乗効果があることは間違いありません。大手ドラッグストアが積極出店を続けていますが、大手との差別化策としても、SM併設のメリットを生かすことができると考えています。

──10%出資していたよねや商事(秋田県/佐々木隆一社長)を2月に完全子会社化すると発表しました。今後、新規出店だけでなく、M&A(合併・買収)による売上規模の拡大については、どのように考えていますか。

板垣 よねや商事は、秋田県の横手地区を中心に店舗展開をしています。当社の最北にある店舗からクルマで1時間程度の地区です。すでに、サンコー食品から、よねや商事向けに日配品や総菜などの商品の供給を始めています。月間700万円ほどの売上になっており、年間では8000万円程度がよねや商事の売上に寄与する見込みです。さらに、ニチリウのPBの販売も始まったところです。

 秋田県南部は100~200億円の売上規模のSMが多く、価格競争の激しい地区です。よねや商事のメリットとしては、当社の情報システムを活用することで、販売動向を把握できるようになるということがありますし、規模を生かした仕入れ条件の改善なども期待できます。われわれが強化している総菜も強みとなるでしょう。現在、売上が100億円強ですが、これを2倍くらいには引き上げたいと考えています。

 当社くらいの売上規模でも、利益環境は非常に厳しくなっています。今年4月の消費税増税以降、どのような影響が出てくるかわかりませんが、消費が落ち込むようなことがあれば、規模の小さいSMほど大きい影響が出てくるでしょう。われわれとしても、シェアの拡大の1つの手段として、M&Aも当然、考えていきます。