フードロス削減は、生産から仕入れや製造、販売など食品に携わるすべての事業者、そして消費者にとっても重要な課題の1つだ。環境面での悪影響はもちろんのこと、廃棄が増えれば企業の収益性にも大きく影響を与えることになる。コークッキング(東京都/川越一磨代表取締役CEO)は、フードロス削減のための取り組みに注力している企業の1つだ。今回は、同社の中核事業であるフードシェアリングサービス「TABETE」について、前編・後編の2回にわたって解説。前編では、「TABETE」の仕組みやサービス開始の背景、利用動向について説明する。
消費者の意識を変えるきっかけに
「TABETE」は、味や品質面では問題ないにもかかわらず、売り切るのが難しく廃棄せざるを得ない商品を、消費者がリーズナブルな価格で購入できるフードシェアリングサービスだ。ユーザーは出品された商品をアプリ上で選択してクレジットカード決済し、その後店舗まで受け取りに行くという流れとなっている。
「TABETE」のサービスが開始されたのは、2018年4月のことだ。コークッキング代表取締役CEOの川越一磨氏は、もともと飲食店での勤務経験があったことから、フードロスに対する問題意識が高かったという。川越氏は以前、農家から出た規格外の野菜を活用してスープをつくり提供する「ディスコスープ」というイベントを開催していたが、単発のイベントではフードロスに対する消費者の意識を根底から変えることは難しく、日常に根付くサービスの重要性を感じていた。そこで立ち上がったのが「TABETE」だ。開発の際は、15年にデンマークで開始されたフードシェアリングサービス「Too good to go」を参考にしたという。
フードロスが発生するポイントは、サプライチェーン上でも生産者から卸売業者、販売者、消費者に至るまで複数存在する。このうち、「TABETE」の対象範囲となるのは、消費者と商品を販売している店舗だ。その理由として、コークッキング取締役COOの篠田沙織氏は「日本のフードロスの比率は事業系と家庭系で約半々となっている。サプライチェーン上流の農家やメーカー向けのサービスはすでに多く、われわれは消費者がフードロスに対する意識を変えるきっかけを提供し、下流からフードロスを削減することに貢献したい」と話す。
購入者の約7割が30~40代の女性
21年1月時点で、「TABETE」の登録店舗数は約1500店舗。そのほとんどが中食の店舗で、最も多いのがベーカリー、ついで弁当や総菜の専門店、洋菓子・和菓子店となっている。都道府県別では東京都にある店舗が最も多く、そのほか大阪府や福岡県など、都市部に位置する店舗が多い。
「TABETE」導入店舗では、フードロスが着実に減っているという。高級ベーカリー「PAUL(ポール)」では、「TABETE」導入後、廃棄率を0.9ポイント削減することに成功し、2.1%となっている。
アプリの登録者数は約35万5000人(21年2月8日時点)。購入者の6~7割が30~40代の働く女性で、食へのこだわりが強く、エシカル消費やフードロス削減への意識が高い人が多い傾向にある。
購入しやすいように価格制限を設定
順調に登録店舗数、ユーザー数を伸ばしている「TABETE」だが、店舗やユーザーからの要望も多いという。たとえば、登録店舗からは価格の上限を高くしてほしいという意見が寄せられている。「TABETE」では、出品する商品の価格は250~680円の間と決められている。また、1店舗で同時に出品できるのが1品のみとなっており、多くの店舗が複数の商品をアソートして販売する方式をとっているため、出品枠を増やしてほしいという声もある。
価格制限を設けている理由として、篠田氏は「『TABETE』がモデルとしている『Too good to go』が同じような価格帯であるのが理由の1つ。また、消費者からは『売れ残りなのに価格が高すぎる』と思われる可能性もある。加えて、たとえば分量を増やして3000円分の詰め合わせを出品したとして、売れても家庭内で食べきれず、結局廃棄されてしまうのではないかという懸念もある」と話す。
もちろん、売れ残っている商品であっても味や品質での問題はなく、安全に食べることができる。しかし、価格の高さが購入されない理由になるのはもったいない。そこで前述のような価格制限を設けているとのことだ。
ユーザーからは、決済手段を増やしてほしいという声が挙がる。現状はクレジットカード決済のみの対応となっており、「LINE Pay」「PayPay」」などのQRコード決済や携帯電話のキャリア決済、コンビニ払いなどを求めるユーザーは少なくないという。
後編では、「TABETE」のコロナ禍での状況や今後の事業拡大の戦略について解説する予定です。お楽しみに!