新型コロナウイルスの感染拡大による巣篭もり需要により、業績を伸ばした食品スーパー各社。2月以降、既存店売上高が2ケタ増と伸び続けたチェーンも少なくない。ただ、9月以降は消費増税の反動減もあって伸び率は鈍化、消費者の財布の紐は固くなる兆候が見られている。コロナ禍の行方も不透明感が漂っており、2021年の食品スーパー業界は、潮目が変わった消費とどう向き合うかが課題になりそうだ。
食品スーパーの「天敵」
「予想以上に厳しい」
2020年9月以降の消費動向について、食品スーパー各社の関係者は、異口同音にこのようなコメントを発している。
今年2月以降、8月まで、既存店売上高で対前年同月比2ケタ増を続けてきたヤオコー(埼玉県)も、9月は同2.3%増、10月は同4.1%増にとどまった。11月には再び同8.0%増に戻しているものの、川野澄人社長は先行きに対して慎重な姿勢だ。
民間企業のボーナス支給額は落ち込んでおり、失業率も漸増傾向にある。コロナ禍以前から、食品スーパーの競合として存在感を大きくするドラッグストアも、足元では安売り攻勢を強め、集客力を強化しようとしている。
バローホールディングス(岐阜県)の田代正美会長兼社長が「気が付くと、食品スーパー店舗の周辺にドラッグストアが数店舗できている」とコメントしたように、食品スーパーを沸かせた“コロナ特需”に陰りも見えている今、ドラッグストアが再び競合店として存在感を増している。
たとえば、九州から勢力を伸ばしているドラッグストア3位のコスモス薬品(福岡県)の2020年5月期第1四半期における「一般食品」の売上高構成比は56.7%だったが、21年5月期第1四半期には57.8%と1.1ポイントも上昇。食品で攻勢を強めていることが数字から読みとれる。
ツルハホールディングス(北海道)も21年5月期第2四半期の食品部門は前年同期比で11.1%増と大きく伸びている。しかしその一方で、同部門の売上総利益率は14.5%と前年同期から1.6ポイント落としている。売上総利益率低下は、食品の安売りを強めているためとみていいだろう。
食品スーパーの対抗策は
食品スーパー各社はこうした状況をどう打破しようとしているのか。2020年に引き続き、21年以降も有力な手段として期待されるのが、「小商圏・高占拠型の店づくり」(大手食品スーパー幹部)である。
たとえば、ヤオコーが19年にオープンした「東松山シルピア店」(埼玉県東松山市)では、総菜コーナーで「味噌だれ焼き鳥」「焼きおにぎり」など、東松山市で親しまれている名産品を品揃えすることで、地域色を強く打ち出している。
ドラッグストアが食品部門を強化している現在、地域住民が慣れ親しんだ商品を導入するという、地道な地域密着の取り組み、取りこぼしのない商品政策が、21年以降の食品スーパーには求められそうだ。
足元では、Genky DrugStores(福井県:以下、ゲンキ―)やクスリのアオキホールディングス(石川県)といったドラッグストア企業が生鮮食品の導入を推し進めており、食品スーパーの“領海侵犯”が顕著になっている。
現段階では、ドラッグストアの生鮮食品売場は、専門企業に運営を委託しているケースが多い。しかし今後は、ゲンキーのように本格的な生鮮や総菜の売場を自前で運営するドラッグストアチェーンが増えることが予想される。
コロナ禍の行方が依然不透明な中、21年の食品スーパーは、ドラッグストアを筆頭とする異業種との激しい競争にさらされるのは必至だ。迫る競合に対し、食品スーパーはどう戦うか。「食品スーパーに求められるのはやはり、小商圏・高占拠型の店づくり」(ある経営コンサルタント)であるのは確かだろう。