2020年9月1日、同じイオングループのマックスバリュ九州、イオンストア九州と経営統合し、新生イオン九州(福岡県)が誕生した。ディスカウントストア(DS)が多く価格競争が激しい九州エリアにおいて、イオン九州はどのように統合メリットを出しながら、成長戦略を描いていくのか? 柴田祐司社長に聞いた。
コロナ禍で落ち込むも9月の誕生祭が成功
──新型コロナウイルス感染症(コロナ)禍の影響含め、現在のイオン九州を取り巻く経営環境について教えてください。
柴田 当社の2021年2月期決算は、下期から経営統合したマックスバリュ九州とイオンストア九州の業績がプラスオンされます。上期の状況をみると、他の総合スーパー(GMS)企業と同様、衣料品の売上と、ショッピングセンター(SC)のテナントから得る賃料収入(売上に応じて変動)の落ち込みが大きいです。
衣料品ではとくに、浴衣の売上は97%減、子供用の水着も半減と、コロナ禍で多くのカテゴリーの売上が“蒸発”しました。イオン九州は粗利益率の高い衣料品の売上構成比がイオングループの他のGMS企業よりも高いため、今上期は営業収益が対前年同期比4.1%減となり、営業利益は赤字幅が同6億1300万円拡大しました。
この1~2年さまざまな取り組みを行い、収益性の高まる体制を整え、「ホップ、ステップ」の「ステップ」に踏み出せるかなというところまできていました。それが、このコロナにより少し足踏みを余儀なくされている状況です。
──9月1日の経営統合後の状況はいかがでしょう。
柴田 9月は会社計では1.7%減ですが、これは昨年10月に行われた消費増税に伴う駆け込み需要の反動減によるもの。前年のバーが高いにもかかわらず、これだけの売上を上げることができたのは、経営統合を記念して行った「新生イオン九州誕生祭」のプロモーションが成功した結果です。売上はとてもよいのですが、利益が取れていない点が課題。とくに食品の粗利益率が下がる傾向にあります。
──コロナ禍の景気低迷により、価格競争が激化していると。
柴田 そうです。九州はDSの“メッカ”ともいうべき有力DSがひしめくエリアですが、各社の価格攻勢がいっそう激しくなっているからです。今後、全国的にデフレの方向に進むものとみています。
──「この1~2年で行ったさまざまな取り組み」について教えてください。
柴田 1つが、18年から段階的に行ってきた「値下げ」です。DS発祥の地で戦うには、品ぞろえの拡充も大事ですが、一点単価を下げていくことがより重要です。「イオンは楽しいだけでなく、安い商品も多いよね」と評価いただける状態をつくらないと競争には勝てません。そこで、四半期に1回、数百~1000品目の一斉値下げを行い、この9月の「本気の値下げ1000品目」で10回目を迎えました。なお、今回からマックスバリュ店舗も加わりました。
統合後、各県に食品のバイヤーを配置
──社長就任以来、地域と一体化した商品開発も行ってきました。
柴田 ええ。それにより、イオン九州の店舗でなければ得られない体験や商品の開発・育成に取り組みました。
その最たる例が、宮崎県産ワインの新酒発表イベントです。5年前から4つのワイナリーに参加してもらい、ボジョレーヌーヴォーのように解禁日を一緒にして、新酒の発売を大いに祝い、プロモーションをするという「みやざきワインヌーヴォー」を始めました。当社がワインを買い取るので、ワイナリー側も安心してより良いワインの製造に専念することができます。
2~3年目には1カ月足らずで2万本近くを売り切りました。当社はボジョレーヌーヴォーを年間3万本ほど売りますが、それに匹敵する売上です。大きな地域貢献ができていると自負しています。
このように、モノがあふれている時代、商品にどう「ものがたり」をつけ、「うちでしか買えない」商品を開発できるかに注力しています。
──マックスバリュ九州と統合後、商品開発面の新たな取り組みを教えてください。
柴田 食品では、地域の商品部を強化するため、9月から各県ごとにバイヤーを配置しています。各地のバイヤーが、地域のおいしいものや良いものをどんどん発掘して、イオン九州全体、あるいは地域限定の品ぞろえに生かしていくというねらいがあります。
──ローコストオペレーションの取り組みでは、どのようなことを進めていますか。
柴田 人件費含めたものの流れを変える取り組みとして進めているのが、マイクロプロセスセンター(MPC)とでも言うべきものです。これはエリアの旗艦店など1店舗で生鮮加工を集中的に行い、エリア内の店舗に供給するという取り組みです。15年、鹿児島県の鹿かのや屋エリアのマックスバリュ4店舗でスタートし、次いで18年には福岡都市圏に広げ、市内の小型店約25店舗の水産加工を1店舗で賄っています。それにより売上だけでなく利益も上がりました。理由は、売価変更が減っているためです。従来の生鮮は製造部門ですから、素材が手元にあれば無理をしてでも商品化するきらいがありましたが、いまは吟味して発注するようになったというわけです。
次にこの9月から宮崎県内のエリアで、市場のなかにスペースを借りて水産加工施設とし、社員や従業員を常駐させ、そこから店舗に供給するようにしました。今後は延岡エリアのSM、GMS4店舗で11月くらいからスタートする予定です。いずれもマックスバリュ九州と統合したからできることです。
鹿屋エリアではすでにデリカと畜産もMPC化しており、他のエリアでも可能な限り水産以外にこの取り組みを広げていきたいと思っています。
今後の出店はSM、HC、ザ・ビッグ
──このほか、どのような統合メリットを期待していますか。
柴田 マックスバリュ九州は食品に特化して、単品に至るまで知り尽くして売場管理をしています。そのきめ細かさをGMSに導入できれば、GMSの売上はきっとさらに上がるでしょう。逆にGMSが得意とする「ものがたりをつくってうちでしか買えないものを開発・販売する」ことをSMに導入すれば、SMにもメリットがあるでしょう。お互いの良いところを取り入れあって、成長できれば良いと思っています。
──DXをどのように進めますか。
柴田 統合により、ある程度の金額を投資できるようになりました。まずは、キャッシュレスレジをマックスバリュ店舗から順次導入し、今年の冬オープンするイオン原店(福岡県福岡市)にも導入します。現金のやり取りが完全になくなるので効率も上がりますし、違算もないのでレジ締め業務も劇的に短縮します。これを進めながら、今後はイオングループ各社が導入しているセルフスキャン、セルフ精算のしくみである「Scan&Go」「レジゴー」「マイピ」のどれかを実験導入したいと思います。
──最後に今後の出店について教えてください。
柴田 GMSに関しては、出店余地を考えると今後の出店は難しいでしょう。既存店舗の建て替え時に従来のGMSから大幅に刷新された新しい売場を作り上げることで競争力を高めたいと思います。
一方でSM業態では、小型のマックスバリュエクスプレス、マックスバリュをどんどん出店していきます。また、長らく低迷していたホームセンター(HC)業態が復活したので、プロの建築職人をターゲットにした新業態ホームワイドプロを含め、店舗展開を進めていきます。同時に、ガーデニングの新業態についても検討しています。
もう1つの出店の柱となるのがザ・ビッグです。現在、福岡、佐賀、熊本各県に計25店を展開していますが、これを100~200店舗体制にしていきます。もっと小型でも成立するフォーマットも検討していきたいと思います。
以上のように、SMとSM小型店、HCとザ・ビッグの出店により成長戦略を描いていきます。
イオン九州 会社概要
設立 | 1972年 |
資本金 | 48億円 |
本社 | 福岡県福岡市博多区 |
代表者 | 柴田祐司社長 |
社員数 | 2万955名(2020年9月1日時点) |
店舗数 | 314店舗(2020年9月1日時点) |