ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営9 テナント売上アップの前に、SC事業者が果たすべき3つの責任と役割
SC事業者はスーパーバイザーではない
前項の3つの責任は、SC事業者であれば必ず負う責務であるが、本稿の冒頭で示したテナントに対する対応を含めてはいない。それはSC事業者がテナントのスーパーバイザーではなく、デベロッパーだと主張しているためだ。
ただし、SC事業者がスーパーバイザーのような活動を行うことに優位性を持つケースがある。それはテナントスタッフの教育や営業指導がダイレクトにSCの収益に跳ね返るような流動客の多い「立地SC」(乗降客の多い駅の駅前に立地するSCなどを指す)である。
集客せずとも元々流動客が多い立地ではSC事業者の時間やマーケティングコストをプッシュ型の活動に割くことで経営効率が高まるケースがある。
過去、こういった立地SCの成功モデルがすべてのSCの目指す方向のように理解されてしまいSCがデベロッパーである根源的役割より店舗売上を上げるためのスーパーバイザーのような役割に傾倒したことは否めない。
しかし、これは我が国においても特殊な立地SCに限られたケースである。
SCに求められる行動とテナントに求めたいこと
前述のようにSCの維持保全と集客の責任はSCにある。そして、その来店者を店舗内に誘引し、販売し、顧客満足と共にリピートにつなげる責任はテナントにある。
もちろん、ポイントカードを発行しリピート率を高める施策やガラポン抽選イベントなど買い上げ率を上げる施策をSCは行う。しかし、これはあくまで店舗の売上増進のためのサポート機能に過ぎない。
これらのプロモーション活動は、購買の誘因とはなるものの販売という局面に立ち会うのは他でも無い店舗のスタッフである。この局面にはSCは立ち会えない。SCはあくまでデベロッパーなのだ。
店舗巡回と称して営業時間中に店舗を回ってくるSCの社員に言って欲しい。
「売上を上げるのは我々の役割、店舗の商品や接客は我々の責任。我々を信じて任せて欲しい。その代わり、SCデベロッパーとして次のビジョンを見せてくれ」と。
これがSCデベロッパーに対する叱咤激励となるが、その反面、テナントは自らの責任を認識することにもなる。
SC事業者にスタッフ研修や接客指導、品揃えのアドバイスなど求めるのはプロとしての気概を失っているようにも見える。スタッフの育成や商品政策(MD)はテナント企業の専権事項だ。テナントには商売のプロとして立派に自律した商売を期待したい。
いま求められるSC事業者の責任とは
いま、コロナ禍によって退店と賃料減額が増加している。では、なぜ、テナントは退店するのか。それは売上が悪いからではなく利益が出ていないからだ。加えて、コロナ禍において、この先の改善が見えないことによる不安が大きい。次の飛躍が見えれば今を堪えようと思うものだ。したがって、SC事業者の役割責任は、テナントスタッフのケアよりも集客による販売機会の提供と顧客価値とロイヤルティの向上、そして今後の成長ビジョンを示すこと。これが最も重要な役割責任となる。
しっかり集客し、SCのブランド価値を高め、増床や拡張など成長シナリオをテナントに見せることがSC事業者の役割責任になるのだ。
「ポストコロナ、その時、どんな飛躍が待っているのか、SCはテナントにビジョンを示せていますか」
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。
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