破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#3 コスト削減だけでブレークイーブンに持ち込む手法
コロナ禍長期化に伴う経済の長期的低迷により、これから企業の業績悪化は表面化する。事業再生、企業再生は避けられないテーマである。一社でも多くの企業を救うため、私が独自に体得した「企業再建の手法」を解説する第3回目。前回、「一枚目」の実務的内容として、コスト削減だけでブレークイーブンに持っていくこと、小刻みなリストラはせずに必ず1回でやること、そして競争力を奪う絶対に削ってはならない費用があることを解説した。今回はそのコスト削減だけでブレークイーブンに持っていくために、販管費と原価、それぞれのコスト削減変数を理解するところから始めたい。
販管費と原価 それぞれのコスト改善変数
具体的にコスト削減だけでブレークイーブンに持っていくために、アパレルビジネスにおける費用の代表的改善変数として、販管費に占める改善変数と原価に占める改善変数の2つを解説する。
1.販管費に占める「改善変数」はリアル店舗の家賃と人件費の2つ
アパレル・ビジネスの場合、リアル店舗が広告宣伝の場になっているため、広告宣伝費は基本的には店内費用以外は不要だ。下手に広告宣伝費をつかって自社の商品の魅力度をマーケットにコミュニケーションしても、差別性のないレディースアパレル市場では、モール型サイトで類似ブランドと価格比較され、競争力のある競合商品に顧客を持って行かれるだけである。広告宣伝費を投下すればするほど利益率が下がると悩んでいる経営者はこのメカニズムをよく知っておいてもらいたい。
一方、通販企業は顧客獲得(Customer Acquisition )が事業の成否を決めるため、ここは新規の顧客を獲得するために、一定間隔 (LTV<Life Time Value>の回収期間) での広告宣伝品投下が必要となる。だが昨今は、一般的な広告宣伝による顧客獲得は、Amazonなどの「桁違いの投資による顧客の囲い込み」によって、難しくなっている。ゆえに、自社ECの事業を伸ばすためには、本当に腕の立つマーケターと組まなければならない。
よくアパレル企業が誤解をするのは、エルメスやグッチのようなスーパーブランドの大量広告投下の事例である。スーパーブランドのビジネスは、販管費に恒常的に広告宣伝費を組み込む必要がある。これは、科目は広告宣伝費だが、通販企業のようなCustomer Acquisition cost(顧客の獲得費用) でなく、ブランドの「格」を高めるためのイメージ価値向上のための必要経費と捉え、拙著「ブランドで競争する技術」で解説した競争優位を保つための固定費の如く考えるべきだ。
2.原価に占める3つの「改善変数」
原価低減はもっと複雑である。こちらは、過去幾度か解説したが、事業の損益計算書ベースの原価は、
①企画原価(商品企画の段階で、設定した売価に対する仕入れ額)
②マークダウンロス(値引きによる売価低減からくる相対的な原価低減幅)
③商品評価減と商品評価損を加えた額
の3つで構成される。これらの計算は、多少従来の考え方とは異なる私独自のものだから、計算にコツがいるが、しっかりとした運用を覚えると、何が原価を上げているのかというポイントが非常によく分かる。原価が高いからといって、なんの効果もない商社や工場の利益率を下げる交渉をするという効果のない施策をうつ必要も無い。
原価低減は、仕入れた商品を100%定価で販売しきっている場合に限っていえば、単純に仕入先コストを下げればよいのだが、アパレルビジネスの場合、売変(売値を変えること)や、シーズン終了時における商品簿価(在庫)評価など複雑な処理を行っている。例えば、商品評価に関していえば、恒常的に行う評価による損失は原価の増加要因となるし、膨れ上がった余剰在庫を損金処理する場合は特損計上するなど、独特のルールで運用している企業が多い。こうした事業構造と会計制度に詳しくない人が原価分析をすると、原価に潜んでいる「悪魔」を見過ごす可能性があり、商品原価を下げて品質を劣化させて競争力を失うということが起きている。
例えば、本来は②③のマーチャンダイジングの精度向上こそ、是正すべきなのに、仕入れ先にさらなる低コストを要求し、商品品質を悪化させ、病巣と処方箋がずれているケースが散見される。このように、一枚目を構成するコスト削減といっても、その難易度は企業が考えている以上に高い専門性が必要だ。こうしたルールは、現場の人間の方が詳しく、商社は金融機関、他の業界から来た経緯者ほど分かっていない。なお、不採算店舗撤退も必須項目としてあるが、今回は紙面の都合上割愛させていただく。
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