実は誰も分かっていない「D2C」の本当の意味
「なぜ製造業はD2Cを指向するのか?」
それでも製造業が自ら消費者に販売をしようとする理由は、「付加価値を消費者に正しく伝えるため」である。例えば、話を家電量販店に置き換えれば分かりやすい。家電量販店で売っている白物家電などは、種類がたくさん多すぎて、消費者は何を基準に選択すればよいのかわからない。
事前に、冷蔵庫やエアコンなどの機能について徹底的に調べ上げ、価格ドットコムなどで最安値商品を買う人は、増えているとはいえ、実際の母数はそれほど多くない。現実は、店頭で商品を見、店員に説明を受けて「オススメ」を買うとケースが多いのだ。これは、デジタルネイティブと呼ばれる若年層でなく、購買者が高齢者に偏っていることにもよる。
しかし、「店員」だと思って相談している人のほとんどは、メーカーから派遣された「店員のふりをした特定メーカーの販売員」である。したがって、SHARPが派遣した販売員ならSHARPを薦めるし、PanasonicであればPanasonicの商品を薦めることになる。例えば、減ってきたとはいえプリンターは圧倒的に11月に売れる。理由は年賀状需要である。そうなると、Canonなどの大手企業はこの時期に信じられないほどの販売員(マネキンという)を送り込む。実は、プリンターの機能はもはや成熟しており、エプソンやブラザーなど、どこの商品を買っても大差無い。結果的に、いかに繁忙期に販売員を大量に送り込むかという、資金勝負となっている。
このように、製造業がD2Cを指向するのはリテールに依存した既存の販売構造から脱却しようというねらいがある。結局、消費者が最後に財布の紐を緩めるのは店頭なのだから、店頭で隅に置かれる、あるいは消費者に説明さえしてもらえないとなると、良い商品をつくっても全く売れなくなるのだ。
私が『ブランドで競争する技術』で、関さばの事例で書いたように、佐賀関漁業組合が「関さば」の流通を自分で作らなければ、関さばは一般の鯖と一緒にスーパーで「定価」で並べられてしまう。消費者への「価値伝達」を、小売側が製造業の思う通りしっかりとやってくれないからだ。
さて、勘の良い読者であればお気づきと思うが、流通コストを下げて、価値のないミドルマンを排除する、あるいは、製造業がつくった商品の付加価値を正しく消費者に伝えることは、すべて、SPA(製造小売業)が世界で広まった理由とソックリなのだ。
では、SPAとD2Cの違いを皆さんは説明できるだろうか? 製造業が、とか小売業が、という主語の違いではない。次回、その答えを解説するとともに、D2Cの本質に迫りたい。
河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」7/9発売!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)