ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営3〜これからのショッピングセンタービジネスモデル〜
ショッピングセンター事業の経営資源と機会損失
これからのショッピングセンターのビジネスモデルを考える時、重要なのはショッピングセンター事業の経営資源を認識することである。
ショッピングセンター事業の経営資源とは、①不動産、②顧客、③テナント、④人材、⑤ブランド、この5つである。では、この5つの経営資源を今、最大限有効に活用しているのだろうか。機会損失は無いのか考えて欲しい。
具体的には、今経営(運営)しているショッピングセンターについて、①不動産の使い方(用途)はベストなのか、②商業用途に偏っていないか、③収入をテナントの賃料だけに頼る経営をこの先も続けていくのか、④賃料以外の収入を得る術は無いのか、⑤テクノロジーを使って自動化できることは無いのか、⑥やめられる業務は無いのか、⑦訪れる顧客から直接収入を得ることはできないのか、⑧SC企業に働く社員の能力を最大限活かしているのか、これらを1つずつ検証することである。
これらの検証作業の1つとして、顧客生涯価値(LTV)について考えて欲しい。
ショッピングセンターが開業すると「何万人来場者がありました」とリリースされる。しかし、その数をどれだけ誇らしげに発表しても、そこから生み出される収益はテナント売上高を通じて徴収する賃料に限られる。
努力して集めた一人ひとりのLTVからどれだけの収益がもたらされているのかショッピングセンター業者は考えて欲しい。
現状テナントから得る収入も賃料しか無いが、ショッピングセンターは単に店舗の売上高だけでなく、テナントの企業成長によって得られるリターンを得ることはできないのか、など、考えなければならないことは無数にあるのだ。
効率化を進める上では、「既得権益と抵抗勢力」が問題になる。業務効率を上げるため機械化を推進しようとすると「この業務は自動化出来ないんですよ」と抵抗勢力が現れる。この場合、機械化、自動化出来ない業務は、その業務そのものを止めてしまう勇気が必要となる。それで仕事を失う人が出てくることもあるが、そこは工夫するしかない。
これからのショッピングセンタービジネスモデル
ショッピングセンタービジネスの進化が止まる原因の1つは2000年の資産流動化法の改正が大きく影響している。不動産の流動化は所有と経営を分離した近代経営と言われたもののショッピングセンター事業においては所有と開発と運営が分離したことによってバリューチェーンが分断され、それぞれの最適解を目指すあまり情報流通が止まり、機能の一部がガラパゴス化し、進化に取り残されてしまったのだ。
そしてもう1つがグローバルスタンダードに乗り遅れたことである。日本で当たり前のように行われている売上金管理、賃料清算、クレジット包括加盟、販促、営業指導、テナントコミュニケーションなど日本特有のものであり、それを疑いも無く続けてきている。
しかし、90%がキャッシュレス化した中国において現金管理など成立するはずも無い。
20年前、日本のショッピングセンター事業の仕組みを諸外国に向かって発信すると皆が驚き興味を示した。
しかし、今やアジア各国の事業者に日本のショッピングセンターモデルを解説するとあまりのアナログさに驚かれる。「日本では、まだ、そんなことしてるのですか?」と。実は日本のショッピングセンター事業はこの20年でここまで遅れてしまったのである。
これからのショッピングセンタービジネスモデルは、この現実を受け止めた上で、先に解説したショッピングセンター事業の経営資源と機会損失と視点と検証、これらを1つ1つ考えることをショッピングセンター企業に期待するところである。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。
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