アパレル商社復活の道-1 「サステイナブル経営」が商社を殺す訳

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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二次流通市場が大きくなれば、商社は生きられなくなる

 私は、この「二次流通市場」を少子高齢化が進む「子供服」からやるべきだと思っている。もはや、1カップルあたり、平均で2人以上の子供は日本では産まれない。ならば、これまで家庭内で姉から妹へという服の流れを、異なる家族間でできるようにすればよい。メルカリがそういう利用のされ方をしているが、私は、アパレル自身がメルカリがやっている二次流通を率先して作るべきだと思う。

筆者はアパレルの二次流通市場は子供服からスタートしたら良いのではないかと考えている(Mukhina1 / istock)
筆者はアパレルの二次流通市場は子供服からスタートしたら良いのではないかと考えている(Mukhina1 / istock)

  子供の身長は毎年10cmも変化する。「6ポケット」という言葉がある通り、子供服を毎年買う人は、おじいさんやおばあさんで、ギフト需要がほとんどなのだから、毎年新商品ばかりを販売していたら大量に在庫の山となり、メルカリや在庫買取業者が儲かるだけだ。ならば、子供服アパレルから引率して仕入を半分以下に激減し、リユースをやり結果的に資源のリデュースをするのである。この流れは、やがて成人に広がり、そして、日本中に広がって広範囲な「二次流通市場」が形成されるだろう。

 そうなれば、経済が元に戻っても、新規仕入以上に日本中の余剰在庫を回流させて、アパレルが自社ブランドの買取事業を本格化させることでブランド価値を下げず、再利用できる。これを商社にやらせると、どうしても「売上拡大」の呪縛から抜けられず、せいぜい、ポリエステルのリサイクル (7月12日の日経新聞) で、大量生産、大量販売につないでしまうわけだ。私は、こうした取り組みは一定の評価はできるも、本当の意味でのサステイナブルとはいえないと思う。なぜなら、素材がリユースされただけで、完成品の過剰在庫の問題解決にはなっていないからだ。つまり、サステイナブル社会では、根本的に商社事業モデルの構造を変えなければならないのだと思う

 加えていうなら、今のアパレル不況は、日本の政治・政策と無関係ではない。私が思うに、服のような嗜好品が売れない根本的な理由は社会不安にある。実体経済の弱体化に対し、本来は日本が目指すべき新しい産業構造の転換を企てなければならないのに、そのような成長戦略があいまいなままで金融政策で帳尻をあわせ、株価を上げて束の間の喜びを感じさせ、あたかも経済が回復したと錯覚させただけだと言えないだろうか。

 今の若い人は将来に対する展望をもっておらず、自分を着飾ったり贅沢品を買ったりする余裕もないし、その興味も無い。アパレル商品、とくに、ファッション商品というのは、明るい未来が待っていれば消費が発生するが、未来に展望が持てなければ人は服を買わなくなる。これは、政治問題なのだ。結果、ごく一部、それもコンマ数パーセントという富裕層だけが高価な衣料品を買い、あとは、子育てと家のローン、そして、毎年上がる一方の税金で貯金もできない状況になっている。

 結果、アパレル商品はますます売れなくなっている。にも関わらず、AI (人工知能)などを使えば余剰在庫の破棄問題が解決するとばかりに、「売上が下がるのは、予測があたっていないからだ」と考え、私が、幾度も問題解決の処方箋がズレていると指摘をしているQR を昔の教科書に書いてあるという理由だけで乱発し、発注はますます細切れとなり、商社はミニマムロット(素材や商品のこれ以上少なく発注できない生産ロット)を吸収しきれなくなり、そのオーバーコストは工場の研究開発費となっているか、商社との口頭約束になっているなど、いずれにおいてもバリューチェーン全体のコストを押し上げているわけだ。

 その結果、アジアのあちこちに、付属(表生地以外のアパレル商品に必要な資材)、生地、糸などの簿外在庫(口約束で約定をいれた帳簿に載っていない在庫)が散らばっている。数年前、徹底的にバリューチェーンを「見える化」したところ、なんと、1枚1円もしない下げ札(タグ)の2000万円分の簿外在庫も見つかった。その顛末は、担当者が逃げてしまい、その付属業者さんから「どうにか引き取ってくれ、約束が違う」と泣きつかれたこともあった。こんなことは日常茶飯事だ。こうしたドタバタ劇は決して表にはでないが、これが「ものづくり」の実態であり、「変われない商社」の主たる仕事なのである。

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

河合拓氏_プロフィールブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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