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時短営業、フロアシート、アクリル板設置…アメリカとイギリスの小売業の新型コロナウイルス対策

欧米で新型コロナウイルス感染症の感染拡大が広がるなか、地域医療を支え、地域住民の健康づくりに寄与するドラッグストア(DgS)企業などでは、ソーシャルディスタンシング(社会的距離戦略)などの感染予防策によって来店客と従業員の安全を確保しながら、その責務を果たし続けている。米英小売業の新型コロナウイルス感染症対策をレポートする。

ウォルグリーンの薬局でソーシャルディスタンスを保って待機している来店客

ウォルグリーンは営業時間短縮で清掃、消毒、商品補充

 米国では、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)が、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、食品スーパーやDgSで食料品や日用品、医薬品を買物する際、6フィート(約1.8m)以上のソーシャルディスタンス(社会的距離)を互いに保つよう国民に呼びかけるとともに、この距離が確保できない場合は、マスクなどで口や鼻を覆うことを推奨している。

 米DgS大手のウォルグリーン(Walgreens)は、来店客と従業員の安全確保および従業員の健康管理の観点から、20203月以降、新型コロナウイルスの感染拡大防止策を講じてきた。

 ソーシャルディスタンスを確保する取り組みとして、全店舗で、レジと薬局カウンターから6フィートの距離にフロアシールを貼り、さらに6フィートごとに利用者の待機位置を明示。レジと薬局カウンターには、新型コロナウイルスの飛沫感染を予防するアクリル板の設置を進めている。

 店舗の衛生管理も強化している。全店舗で、従業員や来店客に手指消毒剤を提供するほか、定期清掃の頻度を増やす。加えて清掃サービス業者による専門の清掃作業を実施。319日以降は、店内の清掃や消毒作業、陳列棚への商品補充のための時間を確保するべく、24時間営業店舗も含め、大多数の店舗で、営業時間を921時までに短縮している。

ウォルグリーンのレジ前の床にはソーシャルディスタンスが明示されている

 ウォルグリーンは、従業員の健康管理の一環として、体温測定など、従業員の健康チェックを実施しているほか、全従業員を対象に、ストレスや不安の軽減に役立つモバイルアプリ「サンヴェロ(Sanvello)」を導入した。4月以降は、店舗スタッフ、薬剤師、物流センターの作業員にマスクを支給している。

 322日には、新型コロナウイルスへの感染リスクにさらされながら奮闘する時間給従業員に対して一時金を支給することを発表した。フルタイムの従業員に300ドル(32270円:1ドル=108円で換算)、パートタイムの従業員には150ドル(16135円)が支払われる。

 新型コロナウイルス感染症への感染が確認されたウォルグリーンの従業員には、有給休暇を取得する必要なく、最長2週間の欠勤に対して賃金10割が支払われる。2週間経過後も職場復帰できない場合は、アメリカ障害者法(ADA)に基づく一時的労働不能休暇を通じて追加の手当も得られる。また、ウォルグリーンの店舗やオフィス、物流センターが強制隔離の対象エリアとなった場合、ここに勤務する従業員は、有給休暇を取得する必要なく、強制隔離期間の欠勤に対して賃金10割が支払われることになっている。

 

ウォルマートは特別休暇制度を新設

マスクと手袋を着用してレジで作業するウォルマートの従業員

 ウォルマート(Walmart)でも、ウォルグリーンと同様、来店客と従業員とのソーシャルディスタンスを確保するための対策を講じている。店舗の入口やレジで6フィートの距離を明示するフロアシールを貼り、ソーシャルディスタンスを確保するよう、来店客に促すとともに、飛沫感染予防のためのアクリル板を薬局カウンターやレジに設置。4月以降は、入店者数を売場面積1000平方フィート(約92.9㎡)当たり5人未満に制限したのに加え、来店客同士の接触機会を低減させるべく、入口を1カ所に制限して店内を一方通行とした。また、420日から、店舗や物流センター、本社オフィスで勤務する従業員にマスクの着用を義務づけ、来店客にもマスクの着用を推奨している。

 ウォルマートは、従業員の新型コロナウイルス感染症への感染予防の指針として「6-20-100ガイダンス」を定めている。

 他者と6フィートの距離を保つこと、20秒かけて手洗いすること、体温が華氏100度(摂氏約37.8度)であれば出勤しないことを指示するものだ。店舗や物流センターに赤外線体温計を配布し、従業員の体温測定と基本的な健康チェックを義務づけている。体温が華氏100度の従業員には有給で静養するよう命じており、熱が下がってから3日以上経過するまで職場復帰できない。

 ウォルマートは、新型コロナウイルス感染症に関する特別休暇制度も新設している。新型コロナウイルス感染症への感染が確認された従業員は最長2週間、賃金10割が支払われ、診断書があれば最長26週間、その一部が手当として引き続き支給される。医療機関や行政機関から強制隔離を命じられた従業員にも最長2週間、賃金10割を支払う。また、新型コロナウイルス感染症への不安から休暇を希望する従業員に対しては、最大2週間の無給休暇を認め、通常の有給休暇をこれに充てることも可能だ。

 また、通常2週間ごとに支給されている賃金の一部を毎週受け取ることができる新制度を設けた。希望する従業員には週給の5割が週次で支給される。また、31日時点で在籍するすべての時間給従業員を対象に、特別一時金を支給。フルタイムの従業員には300ドル、パートタイムの従業員150ドルを支払う。四半期ごとの一時金の支給も1カ月前倒しで実施する計画だ。

 ウォルマートは、大規模な新規採用により、店舗や物流センターでの人手不足を解消するとともに、従業員それぞれの事情や都合に合わせた柔軟な勤務にも対応できる体制を整えようとしている。3月以降、15万人を採用し、417日には、さらに5万人を追加採用すると発表した。

 

アズダは隔離期間中の従業員に賃金10割を支払う

 英国では、政府が小売業者に対して、2mのソーシャルディスタンスを確保するための施策を講じるよう求めている。具体的には、来店客や従業員にソーシャルディスタンスを保つよう注意喚起すること、発熱などの症状がある来店客は入店しないよう看板で告知すること、入店者数を制限すること、来店客の誘導に当たるスタッフを店舗の入口に配置することなどを指示している。

 ウォルマート傘下の英アズダ(ASDA)では、2mごとの距離をフロアシールで明示しているほか、レジや薬局カウンター、サービスカウンターで飛沫感染予防のためのアクリル板の設置を進めている。また、店舗への入店者数を制限し、買物の同伴者を最小限にとどめるよう、来店者に呼びかけている。

 英国の公的医療機関である国民保健サービス(NHS)では、本人もしくは同居家族に新型コロナウイルス感染症への感染が疑われる症状が現れた場合、自主隔離することを推奨している。また、70歳以上の高齢者や妊婦など、新型コロナウイルス感染症でリスクが高いとされる人々にも、外出の自粛を呼びかけている。

 アズダは、国民保健サービスの指針に従って自主隔離する従業員や行政機関により強制隔離を命じられた従業員に、隔離期間中、賃金10割を支払う。また、70歳以上の従業員や妊娠している従業員にも、12週間にわたって有給休暇を付与している。

ブーツの薬局カウンターに設置されているアクリル板

 英国では、スーパードラッグ(Superdrug)やブーツ(Boots)といったDgSチェーンの店舗でも、フロアシールによる2mのソーシャルディスタンスの明示、レジや薬局カウンターでのアクリル板の設置を行っている。スーパードラッグでは、店内の清掃や商品補充のための時間を確保するため、営業時間を1017時までに短縮。ブーツでは、415日以降、英国内の約2400店舗のうち、繁華街やショッピングセンターにある60店舗を一時的に閉鎖している。