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コロナ禍の米国で新業態開発の兆し!? 外食チェーンが食材販売へ

新型コロナウイルス感染拡大の影響が日を追うごとに深刻化している。米国の感染者数は4月21日時点で76万人超。死者も含め、世界最多となっている。感染拡大防止のためのロックダウン(都市封鎖)が各都市で実施され、経済活動全体が停滞する中、米流通業界では、危機対応策の一環で、食品販売の新たなビジネスモデルが生まれている。 
取材協力=高島勝秀(三井物産戦略研究所)

サンドイッチチェーン大手のサブウェイは2020年4月、新サービス「SUBWAY Grocery」をスタートした

ロックダウン続く米国、EC売上高が大きく伸長

 新型コロナウイルス感染拡大の影響が米経済に大打撃を与えている。だが、リテール産業だけを見てみると、業種によって明暗が大きく分かれているようだ。

 ロックダウンによって外出が制限される中、売上を大きく伸ばしているのがECだ。米ソフトウェア大手Adobeが公表した調査レポートによれば、3月13日からの2週間のEC売上高は対前年同期比25%増となったという。リアル小売が展開するEC事業も好調で、会員制倉庫型店舗を展開するコストコ・ホールセール(Costco)の3月におけるEC売上高は、対前年同月比50%増と驚異的な伸びを示している。

 リアル店舗はその大半が閉鎖を余儀なくされているが、営業を許されているドラッグストアでは、ウォルグリーン(Walgreens)が3月1日から3週間の売上高が対前年同期比26%増に伸長。スーパーマーケットをはじめとした食品を扱う業態も、自宅での食事が増えたことで売上を伸ばしており、3月の月次売上高は、クローガー(Kroger)は対前年同月比30%増、ウォルマート(Walmart)は同20%増となっている。

 対照的に、極めて厳しい状況にあるのが外食産業である。店内飲食スペースが閉鎖され、持ち帰りや宅配に限定した営業を強いられているためだ。米調査会社NPDによると、外食産業の3月23日からの1週間の客数は対前年同期比40%減。売上高に与える影響も深刻であるのは想像に難くない。

外食チェーンが「食材」を販売へ!

 苦境に立たされている外食産業だが、この状況をただ静観しているわけではない。一部の外食チェーンでは、危機対応策の一環として、調理用に仕入れた食材の販売に乗り出している。

 全米で約2000店舗のベーカリーカフェを展開するパネラ・ブレッド(Panera Bread)は、4月8日から自店で扱う食材の販売を全店舗で開始した。通常メニューのサンドイッチやスープに加え、パンやベーグル、牛乳、ヨーグルト、トマト、アボカドといったサンドイッチに使用する食材をネット注文のメニュー追加。商品の受け渡しは通常メニューと同様、店内かドライブスルー、もしくは宅配で行う。

「SUBWAY Grocery」を4月8日からスタート。サンドイッチに使用する食材を販売する。画像はSUBWAY Groceryの公式Instagramより

 パネラ・ブレッドがこの取り組みをスタートした同日、日本でも事業展開するサンドイッチチェーン大手のサブウェイ(Subway)も、約250店舗で食材販売のテスト展開を開始した。レタスなどのカット野菜やハム、チーズ、冷凍スープも扱っており、購入方法や受け取り方はパネラ・ブレッドと同様で、店内やドライブスルーでの受け渡し、自宅までの配送が選べる。

ピンチを新ビジネスのヒントに

 急増する需要に対応が追い付いかず、米ネットスーパー各サービスは発注から商品の受け渡しまでに数日を有する状態が続いている。だが、パネラ・ブレッドやサブウェイでは、注文当日の商品受け取りが可能となっており、新たな食材販売のチャネルとして注目を集めている。また、ハンバーガーチェーンのファドラッカーズ(Fuddruckers)では、食材に加えて店舗で使用しているトイレットペーパーや漂白剤、手袋等の日用品を販売するなど新しい動きもみられはじめている。

 こうした米外食チェーンの動きについて、三井物産戦略研究所の高島勝秀氏は「かつてスーパーマーケットが店内にレストランを併設させる『グローサラント』が注目を集めたが、今回の外食企業の取り組みはその“逆バージョン”とも言える」と指摘する。

 これらの取り組みは、窮余の一策として打ち出された施策であり、その成否は現段階では明らかになっていない。だが、「将来に向けて外食産業の新たな業態を生み出していくヒントとなる可能性もあるだろう」と高島氏は話している。

 これまでの歴史の中でも危機的状況下でいくつもの新たなビジネスが生まれてきた。コロナショックの影響の長期化が予想される中、意外な分野から新たなプレイヤーが台頭してくるかもしれない。