中堅アパレルが2030年まで生き残るには「人事改革」が必要な訳
「2030年までのアパレル業界を取り巻く環境変化は、非常に激しい」。ローランド・ベルガーパートナーの福田稔氏は警鐘を鳴らす。とくに中堅アパレルにその大波が打ち寄せ、吸収合併や市場からの退場を選択する企業も出てくると見通す。このような中堅アパレル企業の再起のために、福田氏はまず人事制度の変革が必要と説く。その理由を著書「2030年アパレルの未来」から一部抜粋してお届けする。
個性を磨く機会のない「デザイナー」
多くのアパレル企業で、一番高い給与をもらうべきなのは役員ではない。優秀なデザイナーと販売員だ。国内アパレル企業のひとつの課題として、企業内デザイナーを育成できていないことがある。サラリーマンと同じような給与システムで、大した権限も与えられず、リスクをとる機会もない。これでは、個性があったとしても磨かれないのだ。
本来デザイナー、とくにクリエイティブディレクターは、結果責任は追うが、その分報酬も大きいプロフェッショナル職であるべきで、若いデザイナーや社員から憧れられるスターでなくてはならない。そのような人間でないと、グローバルで通用するブランドはつくれない。
前述したとおり、ファッションブランドは、デザイナーや創業者の個性や独自性を起点とするビジネスだ。価値の源泉となる人物が一番報われるべきで、サラリーマン化して昇り詰めた役員が高い報酬をもらっているような会社は、間違いなく厳しい状況になるだろう。
販売員も同様だ。国内のアパレル業界には、販売員の力で何とかもっている会社がたくさんある。個性のないブランドにもかかわらず、販売員ががんばってお客様とのリレーションを保ち、何とか売上げをつくっているというケースが散見される。
しかし、たいていは時給が低く、報われていない。本社から切り出された販売子会社所属で、給料が低く抑えられていることも多い。このような中でモチベーションを高く保ち、スタッフのマネジメントもしながら、店を切り盛りして売上げをつくっている店長クラスの販売員は、もっと手厚く報われるべきである。
つまりアパレル企業は、
・自社の価値の源泉はどこにあるのか
・誰が価値をつくっているのか
その 2 つを、もっと真摯に考えるべきだ。
そして、他業界から見ても、柔軟で魅力的な報酬制度をつくることが必要である。
いま、国内アパレルはかつてない人手不足に陥っており、2030年に向けてさらに需給ギャップは拡大していく。業界をまたいだ人材の取り合いは、ますます激しくなるだろう。本書で何度も言及しているデジタル化についても、残念ながらテック系の優秀人材は、給与水準の低いアパレル業界に見向きもしない。他業界と比べても魅力ある職場環境や報酬制度を考えないと、たんなる人手不足だけでなく、高齢化と硬直化が進む悪循環に陥ってしまう。服飾系専門学校の入学者が減り続けていることからも、若者からみて業界の魅力度が下がっていることがわかる。
アパレル企業の経営者には、ぜひデザイナーと販売員に光があたり、若者から憧れられ、結果人材が集まるような職場環境と報酬制度を用意してほしい。