コロナショックで全滅のアパレル業界が今すべきことは“熱中症対策”
アパレル業界は、暖冬から何を学んだのか?
さて、2020年はアパレル業界にとって悪夢だったという意見が多い。コロナショックに加えて暖冬のダブルショックによってとどめを刺されたと関係者の多くが考えている。しかし、「今年は暖冬だった」と嘆くのであれば、なぜ、「その先」を考えないのだろうか。
例えば、開催が1年後に延期された東京オリンピックも、真夏の炎天下で開催され、数多くの外国人が入国するとしたら、彼らの多くは熱中症でバッタバッタと倒れるだろう。それほど、日本の夏は、地球温暖化によって灼熱地獄になっている。北の国からきた選手もさることながら、応援席の観客に至るまで熱中症は深刻な問題であり、経済産業省も本問題をオリンピックの最重要課題として認識しているようだ。
本問題については、スポーツ衣料については既に入札が行われ某企業が対応製品を開発中であるということだが、応援する人や大衆は、オフィシャル製品以上の冷汗素材が開発できれば「市場の原理」でそちらを選ぶだろう。このままでいけば、ユニクロがサラファインを改良して、「一人勝ち」するだろう。そして、いつもの如く、アパレル企業があわてて商社を呼び「あの商品の真似をしてつくってくれ」などといって、まがい物が出てくるに違いないと私は思っている。
こうした、超冷汗素材、あるいは衣料品をユニクロの真似で無く、自前で開発することができれば、大きなビジネスチャンスになる。オリンピック需要を考慮に入れずとも、我が国の灼熱地獄が和らぐことはなく、この手の素材や衣料品の需要は大きく高まる可能性が高い。
例えば、ワークマンのプロ仕様の服の中には、電池を服に組み込み衣料を暖めるという、まさに「プロ」発想の服があるが、充電式バッテリーを使った冷感衣料を開発しても面白い。私なら、家電メーカと共同で開発するだろう。あるいは、ダウンベストのような衣料品をつくり、氷や保冷剤を入れて体を冷やす、レーヨンなど熱伝導の低い素材を使う、つばのでかい帽子を作り頭に氷や保冷剤をいれられる仕様にするなどだ。
また、一社だけの独占を避けたいのであれば、何社かが集まり経済産業省を巻き込んで、体感温度、あるいは本当に体温を下げる機能を持つ衣料品には「認証マーク」を発行するということだってできる。例えば、「認証マーク」も、白色、水色、青色と三段階にし、その効果によって変えてゆくなどだ。この国家プロジェクトが成功すれば、この技術を使って南の国に輸出をすることも可能だし、熱帯化が進む欧州にも輸出が可能だろう。東レ、帝人などの一流紡績企業と組めばこうした繊維の開発は必ずできると思うし、必要ならば私がプロジェクトマネージャになってもよい。
このままゆけば、今度も、ユニクロのサラファインのまがい物が山のように出てくるのは間違いない。なぜもっと早くからこうしたプロジェクトを推進しないのか。例えば、体感温度をマイナス5度などという目標値を設定ししかるべき研究機関とともに開発をする、あるいは、一社で足りないなら、ユニクロを除いた例えば「5社連合」など、複数アパレルが組み共同出資で開発するなど、投資すべき対象はいくらでもある。もし、私にやらせていただければ2ヶ月で戦略をつくり、半年で実用化させられる。
ところが行く先々で聞こえてくる声は、「今年は暖冬だった」「先の天気を見通せるデジタルツールはないか」というものばかりなのだ。いま、天気だけでいえば、その精度はさておき12ヶ月先までの天気情報が公開されているのだが、そんなものに頼るより、毎年繰り返される灼熱の夏を乗り切る機能性衣料の開発こそ、オリンピックを控えたアパレル企業がすべきことだ。このように、論理的に考えてゆけば、今すべきは株価を上げることでもなければ巣ごもりしてじっと冬眠することでもない。「そのとき」の準備をすることだ。これが戦略的思考というものである。
プロフィール
河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)
ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)