ペット市場、「量」から「質」への転換期 高付加価値戦略で 差をつけろ
HCペット部門の差別化策
ペット需要の質的深化に応じ、HCのペット部門は差別化が急務である。
富士経済(東京都)の調査によると、国内ペットフード・用品販売チャネル別構成比はHCが37.6%で、スーパーマーケット(16 .2%)、ペットショップ(13.4%)、ドラッグストア(8.8%)と圧倒している。しかし、その比率は縮小傾向にあり、シェアを奪われつつある。
その中でも、独自の戦略でペット事業を拡大しているのは、アークランズ(新潟県)だ。アークランズの「NICO PET」は、犬猫の生体販売を含めて直営運営している点が特徴である。生体を扱うリスクを敢えて負うことで、トータルでのサービス提供と専門性を高めている。トリミング、ホテル、しつけ教室、ペット保険、ペット葬祭まで提供し、「ゆりかごから墓場まで」をコンセプトに、一生に寄り添う総合サービスを展開している。
今年3月にはペッツファーストホールディングス(東京都)を完全子会社化した。同社はペット販売からアフターサポート・動物病院・ペット保険等などペットの総合企業をめざし、104拠点のペット販売店および動物病院などを展開している企業だ。このM&A(合併・買収)により、ペット市場で大きな存在感を持つ企業となった。
ペット部門の差別化は犬猫という切り口だけではない。ジュンテンドー(島根県)は、アクアリウムを戦略カテゴリに位置付け、全国121店舗中116店舗で観賞魚を取り扱っている。とくにメダカに注力し、初心者層を取り込んでいる。専任バイヤーによる指導、社員への資格取得奨励により、粗利益率を高めるとともに顧客満足を向上させている。
物販とサービスをワンストップで
差別化が求められているのはHCだけでなく、専門店も同様だ。
ペット専門店最大手のイオンペット(東京都)は、150~180坪規模の標準店舗を全国に展開し、「PETEMO」ブランドで事業領域を拡大してきた。物販に加え、サロン、動物病院、トレーニング、保険などをワンストップで提供できる体制を構築している。プライベートブランド(PB)開発にも注力しており、猫専門店「ネコモ」など新業態開発も進めている。
アレンザHD傘下のアミーゴは、24年9月に「ペットフォレスト」および「ジョーカー」を統合。3ブランドを維持しつつ、本社機能を統合し、取引先・物流の一元化とブランドごとの差別化を同時に推進している。各ブランドの棲み分けを行い、30年までに売上高500億円、180店舗体制をめざしている。
アミーゴはもともとタイム(岡山県)のペット専門店事業としてスタートし、ダイユーエイト(福島県)がタイムにノウハウを学んで、両社で出店を続けてきた。HCから専門店事業としてスピンアウトし、一大事業へとスケールさせた格好の事例と言えるだろう。
このようにHCでペット部門をスピンアウトさせて専門店事業へと発展させている例は増えている。
サンデー(青森県)はペット専門店「Zoomore」(ズーモア)は、ロードサイド単独型店舗を東北で展開。しつけ相談会やドッグランイベント、同伴出勤制度などを通じて、顧客体験を重視した店舗運営を行っている。HCではそのほか、ジョイフル本田(茨城県)、ジョイフルエーケー(北海道)もペット専門店事業を拡大している。
デジタル軸の注目事業も続々
ペット市場の主戦場はリアル店舗だけではない。
ペットゴー(東京都)はペットヘルスケアに特化したEC事業を展開している。150万人の顧客基盤を武器に、1頭1頭にあった最適なレコメンドをすることで、顧客支持を獲得している。顧客基盤データを商品開発にも生かし、自社ブランド「VETSOne」をD2Cで展開すると同時に、HCや量販店約1200店舗にも供給を始めている。
ペットゴーの黒澤弘社長は「ペットフード・用品のEC化率は、欧米が30%以上あるのに対し、日本は約12%と低いまま。まだまだ広がるチャンスはある」と話す。
ペット保険事業などを展開するアニコムホールディングス(東京都)傘下のシムネット(宮城県)は「みんなのブリーダー」などのマッチングプラットフォームを運営。ブリーダーのマッチングにとどまらず、EC、情報提供など多層的な展開を行っている。
日本は30年以上続いてきたデフレから脱却した。これからはインフレの時代である。HC各社はその変化に即した戦略を打ち出す必要がある。
「最愛ポジション」のペットには惜しみなく支出したいというニーズがある分、チャンスは広がっている。ペット部門の差別化、スピンアウトさせた専門店事業、ECなどの新規事業、サービス連携といった複合的なアプローチで、ペットオーナーに対する価値提供を深化させることが、持続的な成長のカギを握っている。








