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ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方

私は前回、日本企業の夢展望が巨大ECモールを世界中で展開する「Temu」に出店する疑問と懸念点を指摘した。今日は、こうしたECモールに対してアパレルはどう対応すべきか、今後のECモールとの付き合い方について持論を展開したいと思う。

ECモールは「顧客のバケツ」を保有するプラットフォーマー

 まずはオンラインモールのビジネスモデルについて考える。モールとは、いわば、「顧客のバケツ」のようなものだ。そのバケツには服を買ってくれる顧客が山のようにいて、そのバケツの中で「顧客の奪い合い」を同じモールに出店している競合アパレルと行うのである。

 モールにしてみれば、誰が勝とうが関係がない。結果的に、例えば1億円の売買がそのモールを通じてあがれば、それに応じた「通行料金」を頂けるからだ。つまり、モールというのは、テナントであるアパレル企業から見れば、高度にルール化された「プレイグランド」であるということである。そして、誰かが勝とうが、負けようが関係ない。取引高が大きければ、通行料金を沢山もらえるし、小さければもらえない。それだけである。

 集客力の高いオンラインモールは、きわめて強い存在だ。例えば、○○セール!などといって、クーポンや期間限定セールを頻繁に行っているわけだが、そのセールのディスカウント料金をテナントに負担してもらう(テナントがモールのセールを手伝って、値引きをする)ことで、モールの自社リスクを極力減らしている。

 くどいようだが、モールの収益源は「通行量の総和(から発生する手数料と広告料)」だから、それがセールから来ようが、プロパーから来ようが関係ない。

 極端な例として、「オール70%ディスカウントセール!」というキャンペーンを行ったときのことを考えてみよう。

 アパレルテナントは大赤字になるが、モールは「ディスカウントなりの通行量に応じた手数料」を頂くことができ、施策によって売上が最大化されるので、むしろディスカウントは歓迎すべき打ち手なのだ(実際は、アパレルテナントの通行量に応じた手数料には細かな計算式があって、それほど簡単ではないのだが、ここはあえて分かりやすく書いておく)。

 

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販売の現場ではなく、川上重視
そんなアパレルが下す決断

AndreyPopov/istock

 ここで、モールとテナントの関係を整理する上で、まずはその前提となるアパレル側の変遷から解説したい。

 古くは「SPA」を誤解し、「自社で商品をつくることがSPAだ」と誰かが言い出したことで、アパレル企業各社がこぞって「SPAにすれば勝てるのだ」とばかりに、商社を活用して自社レーベルの服をどんどん量産していった。

 当たり前だが、自社で商品を作ろうが他社の商品を売ろうが、良いものは売れるし、良くないものは売れない。そんな簡単な理屈さえ忘れてしまうほど「SPA万能論」に心酔したアパレル業界は「川上」へと上っていった。しかし、川上(原料、糸、縫製など)の世界は販売という「アバウト」な世界と異なる、「科学」の世界である。

 そうした川上の世界の「深さ」を知ることなく、表面的に川上の業務をなぞっただけで、「完全にSPAを知り尽くした」顔をするアパレル関係者が続出していった。

 その後も、中途半端な知識のまま「川上」だけをみるようになり、アパレルの生命線である「販売の現場」をないがしろにしていったのだ。

  ECモールへの出店は、競争のなかで売上を得る代わりに顧客データを渡すこと

 こうなってしまうとアパレル企業の「優位性」などなくなってしまう。だから、売場から発生して「ものつくり」として川上に上っていった「アパレル小売業」に業績で抜かれていったのである。

 その後は、川上にのぼっていったアパレルメーカーで成功を収めたのはオンワード樫山ぐらいで、残りの勝ち組はほぼ「売場」=川下から上がっていったSPAアパレルになってしまった。

 こうなると、店舗を展開していながらも自社の意識はほぼ「アパレル企業=メーカー」となってしまう。

 そうしたなかで効率的な販売の手段を考えると、結局、ZOZOTOWNに行きつく。ZOZOTOWNに出品すれば、自社でECを持つよりもずっと少ない初期投資で、それなりに高い売上を上げることができる。自社でECを持つには「顧客ベース」が充実していないと満足にそこを訪れるお客すらいないのだが、ZOZOTOWNの保有する「顧客のバケツ」は膨大だから、「そこから取り放題だ!」と思ってしまう。思慮の浅いビジネスパーソンは「それなら、ZOZOTOWNに出店しよう」となるわけだ。

 一方、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは、ZOZOには出店していない。彼らは一部の例外を除いて、ほとんどが自社ECである。安易にモールに出品すると、自社目当てで訪れる顧客データ(クレジットカード情報や住所、名前、性別などのデータがすべて)をすべてオンラインモールにささげることになる。とくに「ユニクロ」のような強力なブランドであれば、顧客ベースも膨大だから、ZOZOに集客を頼る必要もないから、自社の顧客データをZOZOTOWNに与えてしまうだけだ。だからファーストリテイリングはZOZOTOWNに出店しないのである。

もしユニクロがZOZOTOWNに出店したらどうなるか?

 どんなデメリットがユニクロに起こるのかをわかりやすいように説明すると、もしユニクロがZOZOTOWNにユニクロが出品していたとすると、ユニクロを買う場合、ポイントのないユニクロではなく、ポイントやディスカウントだらけのZOZOTOWNで買おうという選択をするお客が一定程度出てくる。そうした客はそれ以降すべてZOZO経由でユニクロを買うようになるだろうし、ユニクロとしては売上総額は一緒でも、優良顧客のデータをZOZOに渡し、ZOZOはその優良顧客を囲い込むために、ユニクロの類似品をレコメンドしたり新たなブランドを提案をしたりすることになるだろう。そうするとユニクロから顧客が離脱することになる。

 もちろんユニクロの顧客ロイヤルティが絶大で、どんな提案をしてもZOZOTOWN内でその顧客がユニクロだけを買い続けたとしてもZOZOTOWNとしてはそれはそれでよい。「経由」=「通行量」なので、何もせずに売上・利益を上げられるからである。

 これでユニクロがZOZOTOWNなどオンラインモールに原則出店しない理由がわかっただろう。三井不動産のオンラインモール「&mall」に出店しているのは、商業施設「ららぽーと」との強い関係性があるからだ。

これからのモール戦争の焦点は「誰がネクストの地位に就くか?」

 このように、モールというのは「プラットフォーマー」のことで、その上で汗を流して上納金を稼いでいるのがアパレルテナントということになるのだ。

 したがって、Temuだけでなく、シーインも自らをプラットフォーマーにしようとしているし、日本でもオンワードが自社ブランドにこだわらないモールをつくろうとしている。つまり、これから10年の戦いは、だれがAmazonにつぐ「セカンドECモール」となり、世界のアパレル市場を制覇するかという点だ。モールへの出店というのは、単に「売上が欲しいからやります」ではなく、極めて戦略的な洞察と将来への予想が必要となるのである。

 

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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