今年も暑い夏が来ている。この暑さは異常事態と言って良い反面、“予想できた”ものでもあった。それでも、相も変わらずアパレル産業は在庫を残し、われわれの知らないところで燃やし、二酸化炭素を排出しているに違いない。猛暑が9月、10月まで続くと日本のアパレル産業は痛手を被ることは、業界以外の人には意外と知られていない。今日は、この猛暑に対してアパレル産業が取り組むべきこと、および、アパレルがどのように乗り越えるべきかについて考えて見たい。
夏はいっそう暑く、長くなる
狂う、アパレルのビジネスモデル
日本の夏は、どんどん暑くなり、そして長くなっている。
「昔はこんなに暑くはなかったはずだ」と思った私は「暑い夏」と言われた終戦の年、1945年8月の東京付近の気温を調べてみた(気象庁より)。
なんと最高気温で35度を超えた日は1日もなく、8月1日の最低気温は20度を切っていた。同年8月の日平均気温は26.7度で、2023年8月は29.2度だったので、2.5度もこの間気温が上がっていることになる。
ちなみに2023年の日平均気温は6月20.4度、7月22度、8月26.7度、9月22.4度で、これら期間はもはや夏であり、最高気温でいえば2023年4月11日に25度に達してこの年最初の夏日となり、同年11月7日に27.5度に達し、この年最後の夏日を記録している。春と秋はどんどん短くなり、盛夏と夏が4~5か月続くのがいまの日本の実情と言えるかもしれない。
こうなると、アパレルのビジネスモデルは完全に狂ってくる。なぜなら、アパレルは冬がかき入れ時で、儲け時だからだ。冬物衣料は単価の高いアウターが主力だ。ブランド価値が加われば、2万円越えのニットに10万円近いダウンジャケットなど当たり前だ。単価が上がれば利幅は一緒でも残る利益高は大きいのだ。
一方、Tシャツなどが主力の夏物衣料はそうではない。原価高騰と円安で、今でこそ1万円もするTシャツは珍しくなくなってきたが、コロナ前まではTシャツといえばいくら高くても7000円程度で、5000円越えでも十分高い部類に入っていたと思う。当たり前だが、単価が全然違うのだ。そこから得られる儲けも同様だ。
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Tシャツで儲けるための
高すぎる「ハードル」とは
そして、このTシャツについて、いま圧倒的な強みを持つのはご存じユニクロだ。同社が持つ「服作り」の生産の仕組みと販売力を生かせば、1500円~2000円程度で、ライセンス込みのキャラクターものや高機能素材を使った商品ができてしまう。
こうした夏服のメーンとなるTシャツに加え、ワイシャツ、肌着類を総称して「軽衣料」というのだが、このTシャツや肌着類は逆立ちしてもユニクロには勝てない。理由は、絶対的な価格が低単価だからだ。
価格には絶対的単価と相対的単価がある。これは、1尾1000円のサンマは絶対的な価格としては高い。一方、不漁に不漁が続き、国民でも年に1回しか食べられない貴重なものと認識され、他店では1尾2000円で売るのが普通になったとすれば、相対的価格として1尾1000円は安いと感じるということだ。
同じ1000円といえば、それまでなのだが、その1000円をうまくマーチャンダイジングミックスで儲かる品揃えにするのがバイヤーの腕の見せ所である。だから、私達は頭の中で「こりゃ高い」とか「え、こんなに安いの」と言っているときは、「基準値」と「絶対価格」の2つが頭の中に浮かんでおり、その二つを比較して「高い」「安い」と言っているわけだ。
そう考えると、絶対的な価格が低単価であるTシャツにおいて、1万円で相対的な安さを提供することは、一部のブランドを除けばかなり難しいことがわかる。比較対象として、完成度の高いユニクロがあるからだ。
ユニクロの生産背景は脅威だ。その品質は日本の百貨店ブランドとなんら遜色ない。ユニクロが本気でTシャツをつくればいまでも売価ベースで500円ぐらいで生産できるだろうが、おなじみのUTシリーズでは、そこにライセンス料金を加えても1500円程度でつくり、それでも大きな利益を上げている。したがって、初夏の商戦でユニクロに価格で勝つことは不可能なのだ。だからどこのアパレルもインポートやオリジナルブランドを強化して、1枚単価7000〜1万円という高価格でTシャツをつくっている。これでは、一部のファンやファッショニスタには売れても、枚数を稼げるわけではないから、競争で勝てるわけはない。とくに今は、「価格が絶対的な正義」だからだ。
そこでユニクロに勝つために、アパレル各社は、重衣料と呼ばれるコート、ダウンジャケット、太番手のニットなど、一般的にアウターと呼ばれる秋冬物、特に翌年1月、2月に着るダウンジャケットなどで勝負を挑んできたのである。
しかし、ここに日本列島、いや世界を「極暖冬」が襲った。11月〜12月が暖冬となった今、秋冬物も軽衣料にジャケットを組みあわせるスタイルが流行り、もはやユニクロに勝つ術がなくなってきているのである。
ではどうすればよいのか?
ユニクロに勝つ方法は二次流通
企画段階から意識した商品開発を
数年前、私は余剰在庫の山となっているアパレルが取るべき戦略は「二次流通である」と声高に叫んでいた。当時は、「アパレルが補修屋になるのか?」などといわれ揶揄されたものだったが、今では自社のブランドを買い取る二次流通がどんどん広まってきており、「また、二次流通?」といわれて違和感を持つこともなくなってきた。
私は、この暖冬の世の中でユニクロに勝てる秘策があるとしたら、二次流通しかないと思っている。ただし、単に売ったモノを買い戻せば良いというものでなく、最初の企画段階から次のデザインに使えるように「パーツを組む」のである。「企画の初期段階から二次流通を意識する」は、もはやスマホや家電分野では当たり前だし、アパレルだってやってやれないことはないだろう。
例えば、1万円の商品を40%で買い戻せるのであれば、最終的にこの商品を購入した消費者は、買い戻しをいれて6000円の出費となるし、消費者もそのような計算をして商品を買うだろう。そうなると、ユニクロと価格は並ぶし、中太りしたバリューチェーンのムダな部分を吸収してくれる。
8月はこの先も厳しい暑さとの格闘の日々が続くだろう。最近では、夏に広まるインフルエンザや未知のウイルスなどもいるようだ。本格的に世界中でアパレルのビジネスモデルをしっかり見直す時が直ぐそばにきている。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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