日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
インフレ下で、デフレのものづくりをしているアパレル業界
服の世界は、他のさまざまな工業製品と同様にコストプッシュ型インフレと言われているが、もの作りをしている側からしてみると、実は「完全なデフレ」である。
使う原料の量、縫製や編み時間を短くするためのものつくりの簡素化…… これらの結果、服はペラペラになってきて、また、ペラペラの服に消費者が慣れてしまったため、もとに戻すこともしないでいるからだ。まさにデフレなのである。私はこうしたトレンドの結果、「服文化」が日本から消えてゆくのではないかということを懸念している。
今ユニクロ一強なのは、日本の経済が停滞し国民が貧しくなってきたことも関係あるが、それ以上に、消費者が「服などペラペラのもので安く買えば良い」という具合に、買い方、使い方が「ペラペラな服」に慣れてしまったことにも大きな問題がある。
そうなると、過去は「ユニクロは安いが生地は悪い」というポジショニングだったが、いまや「ユニクロがもっともよい生地をつかっている」という具合に、反転してしまっているのだ。
特に、一般アパレルのポリエステルの使用量は年ごとに増えているように見え、また、消費者はそのことに気付かず、気付いてもなにも感じない。これは、ユニクロやシーインなどがつくったファッション文化の負の部分といえる。今、セレクトショップにいくと、Made in Italyの男性用パンツは3万円〜5万円。ニットになると10万円もするほどだ。もちろん、使用する素材の目付、縫製技術、デザインなどは一級品であるが、こんな価格で服をホイホイ買える人は少ない。服にも二次流通市場が整備され新品で買ってもブランドが高値で買い戻してくれればよいのだが、ファッション商品というのは、早いと年ごとに流行が変わるので現実的には難しい。
例えば、男性用パンツなどは、5年前は非常に細いパンツばかりだったのだが、今は、わたりの太いパンツばかりになってしまった。このように、一年で流行が変わるので、なかなか二次流通を幅広く扱うことに前向きになれないでいるようだ。
ここまでみてきたように、服がペラペラになってきたのには、いろいろな意味がある。
経済の停滞と上がらない所得、素材価格のインフレと完成品としての服のデフレ、そしてそれが定着したことによる流行・トレンドなどである。
しかし、今のペラペラは不可逆的なもので、次にトレンドが変わったからもとに戻そうというわけにはいかない。偶然いまは、トレンドとコストダウンがマッチしているだけだからだ。そうなると今後は、本来コストを切り詰めることが得意な中国、韓国ブランドが中価格ブランドに入り込んでくるだろう。今の消費者は、それぐらい価格に対して敏感なのである。
コロナ前に散々叩かれた百貨店の服売場だったが、ここまで世間一般の服がペラペラになると、その反動で常時高価格で非ペラペラの服を売っている百貨店が復活する時代が来る可能性もあるだろう。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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