日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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昨今、「服の生地がペラペラになってきた」という声をよく聞く。多くの人は、アパレル側のコスト削減の結果とみる向きが多いが、実はそれほど単純な話ではない。社会、経済、業界慣習、そしてトレンドが複雑に絡み合った結果なのである。どういうことか?

Lemon Pie/istock
Lemon Pie/istock

 女性の社会進出と服の「軽量化」の関係性

 1kg=1000円の糸があったとする。ここでニットの目付(めつけ:重さのこと)が300グラム(肉厚で重いニット)だったものが200グラムになると、素材のコストは300円程度から200円程度に落とすことができる。原価で34%のコストダウンの実現である。このことから「昨今の原料高を吸収するために目付を軽くしているのだ」と言う向きがあり、それは正しいことではあるが、実はそれはいくつもある要素の1つに過ぎない。

 ファッション衣料の原料が軽くなったのは、「トレンド」だからである。コストダウンは確かにそうなのだが、あくまでも、トレンドの結果として起きているだけだ。ニットであればスケスケの、布帛やジャージであればヘソ出し、肩だしルックなどが流行りだした。これにはいろいろな理由があると思われるが、まず第1に「女性の社会進出による開放感の醸成」、次に「地球温暖化による気温の上昇」に伴い軽くて薄い生地が好まれるといった要因がある。

 第1の社会進出については説明が必要だ。ヘソ出しや肩出しルックが流行った時、某男性評論家は「セクシーカジュアル」と名付け、女性が男性の目を引くためにセクシーな着こなしをしていると説いていたが、これは完全に間違った理屈である。

 実際、私は、その「セクシーカジュアル」ブランドを生み出したクリエイターに話を聞いたことがあるが、彼は「アメリカンカジュアル」と言っていた。つまり、クリエイターからしてみれば、原料の使用量が少なく肌の露出が増えている服は実は「アメカジ」なのである。私もはじめは理解が追い付かず、驚いたのだが、話を聞いていくうちに理解が深まってきた。

 どういうことかわかるだろうか?

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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