「時代遅れ」を感じた小売業が実践すべき「出島戦略」とは?
小さな組織のつくり方

勢いのあるアパレルを見ていると、意志決定を「小さな組織」に集中し、それぞれのブランド責任者が、少数で最終的な意思決定を行ってゆく。彼等は、末端のデザイナーにも発注権限を与え、どんどん素材を先行で押さえている。まさに製販が一体となった物作りを企画段階から行っている。
これに対し旧体質の組織では、商談中にマーチャンダイザーとデザイナーが素材一つで喧嘩をするという光景をよく目にする。 意志決定の権限がどこにあるのか曖昧だし、責任の所在も不明確だ。 本社に目を向けても、全員が「忙しい、忙しい」と言っているが、よく調べてみると社内調整ばかりしている。
一方、経営者はしびれをきらし、外部から有能なデザイナーを呼んだり、実績のあるマーチャンダイザーをヘッドハントする事例をよく聞くが、うまくいっているという話をきいたことがない。これは、有能な人材を「古いシステム」の中に入れてしまうからだ。素材を買うのに、ハンコが8つも必要な組織の中で、これまで自由にやってきたデザイナーが自分の実力を発揮させられるわけがない。
デザインはあなた、発注はあなた、と組織ごとに仕事の分業をする「機能別組織」は一昔前までは機能していた。靴下とか下着などのように、同じものを大量に高品質で作るには都合がよいからだ。だから、ファッションの変化が少なく、小売と卸売が完全に分離していた展示会発注型モデルでは、分業のほうが理にかなっていたのだ。
しかし、店頭起点のQR(クイックレスポンス)を回すためには、分業は時間を浪費するだけだ。なぜなら、日々発生する変化の中では「伝言ゲーム」は非効率以外の何ものでもないからである。すなわち、変化の激しい時代では、組織は小さければ小さいほどよい。
さらに、権利には必ず責任をセットにして組み込まねばならない。つまり、ブランド責任者には、必ず「期限付き」で権限委譲するわけだ。二年たって成果がでなければ、責任者の交代も検討する。こうした実力主義の徹底で組織が新陳代謝してゆく。責任を曖昧にしたまま小さい組織を目指し、権限だけ与えて組織がカオス状態に陥ってしまった例を数多く見てきた。
体質改善には組織内に「出島」が必要
本気で体質改善を行いたいのであれば、治外法権区域である「出島」をつくるしかない。「どちらがよいか」など、会議で抽象論を語っていても、古い人達に押しつぶされてしまうのが関の山である。まずは、組織の中に「小さな成功体験」を実際に作ることだ。
先述の通り、アパレル業界は5年ごとにビジネスモデルが変わってゆく。過去と同じことをやり続けては競争に負けてしまう。不振アパレルの多くは、過去の遺産を食いつぶし延命しているに過ぎない。だから、体質改善のためには、自己否定できる体質をいかに自社の中に作ることができるかが組織改革のポイントとなる。
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