ユニクロの脱「一括大量生産」が、さらなる勝ち組に向かわせるワケ
初期発注70%、追加発注30%の分割発注の狙い
ファーストリテイリングの岡崎健CFOは決算説明動画で、「Stop & Go」という言葉を使い、これまでの工場起点の大量発注、大量販売から、初期発注70%、追加発注30%の分割発注をSKUレベルまで浸透させると述べていた。MBAの教科書を読めば、いわゆるコストリーダーシップ・ポジションは、大量生産をするから規模の経済が効いて価格が安くなると説くが、アパレルビジネスは全く違う。需要にそぐわず大量生産してしまえば、不良在庫の山とな離、期末の評価損計上で原価が上がるか特損で落とすことになる。ここが、一般消費財のなかでアパレルが難しいところであり、多くの人が失敗するところだ。
ユニクロはかつて、「豊富な資金力」とライトオフ期間の長い「ベーシック衣料」の掛け合わせで大量生産を行って価格を安くしてきた。しかし、ここまで世界中で販売するとなると、もはや四季という概念さえなくなってくるし、24年8月期第1四半期では、「常夏の東南アジアの国における秋対応で悩ましい部分がある」といった趣旨のコメントも聞かれた。
このように、極めて複雑化したMDを、昔のように数十社の協力工場で生産するのは現実的ではないということなのだろう。また、あるリージョンでこの商品がもっと欲しいと言えば、こちらでは在庫が残るから、といったこともあちこちで起きているに違いない。
そこで、彼らは、「70:30」と「Stop and Go」、つまり、MDを機動的に止めたり追加したりして欠品と評価損対象の余剰在庫を極小化することを進めており、それがうまく行き始めた、ということのようだ。同社のMDは、過去、しまむらやZARAと幾度も比較され、やれ回転率が悪い、とお決まりの文句で素人評論家に酷評されていたが、彼らは研究開発型生産とトレンド対応型生産の違いさえ分かっていない。
ユニクロがやろうとしているのは、あくまでも十二分な研究開発期間を保ったまま、無駄な時間を削り、新たに浮上してきた機会損失を埋めようということなのである。岡崎CFOは、まだまだSKUレベルでは合格点ではないと述べていたが、中国、米国など、過去なかなか売上を伸ばせなかったエリアで2ケタ増を達成していること。また、この円安の中で、(説明会では為替リスクのスポット対応を、そのStop and goでどのように切り抜けたのか曖昧だったが)コスト増を切り抜けたようだ。3兆円企業も目前に迫ってきた同社が、「さらにSKU単位で管理」とはなんとも恐ろしい話だ。
仮に、ユニクロのような巨大戦艦がZARAのようなスピードを持ち始めたら、それこそ恐れるものはないだろう。
さて、ユニクロの強さの秘密をまとめよう
- ユニクロのブランドポジションが停滞した先進国世界経済と急成長している途上国経済のニーズに合っていること。
- すべてにおいて合理的なサプライチェーンを組み立て、国際価格をつけていること
- MDに柔軟性をもたせ、巨大組織をエリア制で輪切りにし柔軟性をもたせたこと
の3つである。そして、特筆すべきは、これら3つが有機的にすべて連携し、それらがそれぞれを押し上げる構造になっているということだ。今期売上3兆円を超える見通しで、いよいよ世界一の売上が迫ってきた。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/
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