アリババ現地レポート2 ニューリテール戦略で息を吹き返した”眠らない”百貨店

菊谷信宏(GloTech Trends 編集長)
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ピッキングロボット、テナント向けのAI融資サービスも導入

銀泰百貨で導入されているピッキングロボット
銀泰百貨で導入されているピッキングロボット

 銀泰百貨が推進するニューリテール戦略の取り組みはミャオジェーにとどまらない。例えば、ミャオジェーから注文された商品を店内のテナント店舗からピッキングするのは、アリババグループの物流企業である菜烏網絡(ツァイニャオ)が製造した物流ロボットである。銀泰百貨では注文後原則として1時間以内に商品を配達することをめざしているが、これを効率よく実現するために必要なピッキングロボットの製造をツァイニャオがサポートしているのである。

 また、銀泰百貨にテナントとして入居する企業は、アリババグループの金融部門を統括するアントフィナンシャルが提供するAI融資サービス「網商貸」を利用することができる。アントフィナンシャルは同社が提供する決済サービス「アリペイ」によって可視化されたデータを管理することで、テナントの売上や資金繰り状態を管理できる。こうしたデータを活用することで、入居するテナント企業に対して即時実行可能なAI融資を提供しているのである。

 従来のAI融資サービスといえば、オンライン領域に限定されたものであったが、ニューリテール戦略によってリアル店舗(=オフライン)の領域でも展開できるようになっているわけである。

リテールビジネスは壮大なスケールで「再設計」される

アリババのオペレーションシステム(筆者作成)
アリババのオペレーションシステム(筆者作成)

 実は、アリババは今年から「アリババ・ビジネスオペレーティングシステム(阿里巴巴場商業総作系統)」という名称で”ニューリテール化”に必要なシステムをパッケージ化し、外部企業のニューリテール戦略をサポートしている。このパッケージには物流、金融、デジタルマーケティング、組織オペレーションなど11個の機能が含まれている。

 これまでニューリテール戦略を解説する上では、OMO(オンラインとオフラインの融合)という部分に焦点が当てられることが多かったように思う。しかし、今後はリテール産業が物流や金融などのエコシステム全体と融合し、より壮大なスケールのもとで再設計される時代に突入することになる。中国メディアがその状況をみて「ニュー・リテール2.0時代の到来」と表現したのは前回言及したとおりである。

 次回は、日本企業にも密接に関連するパパママストアのアップグレード事例である零售通(リンショウトン)について解説する。

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