いよいよ消費税率が10%に引き上げられた。2014年4月の8%への増税時とは異なり、軽減税率制度や、キャッシュレス決済に対するポイント還元制度などが実施されているものの、消費者の節約志向はこれまで以上に高くなることが想定される。多くの食品小売業が危機感を募らせるなか、これを好機に成長を図ろうとしている企業もある。ディスカウントストア業態だ。実際、すでに食品スーパーを中心に他業態からシェアを奪い始めているというデータも出ている。大きく変貌を遂げているディスカウントストアの最前線を紹介する。
シェア伸長率はドラッグストア以上
スーパーマーケットから売上を大幅奪取!
まず、このデータを見てほしい。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌は、マーケティングリサーチ会社マクロミル(東京都/スコット・アーンスト社長)の協力を得て、消費者のディスカウントストアの利用動向を調査した(図上)。その結果、19年3月までの3年で、小売業態別食品・日用品の購買金額のDSの割合は12.5%から14.0%に拡大。成長著しいドラッグストアよりも高い伸長率でシェアを伸ばしていることがわかった。さらにシェア流入の内訳を見ると、とくに利用者の流入が多かったのは食品スーパーからで、ディスカウントストアが日常生活における食品や日用品の買い場として消費者に利用されるようになっている実態が明らかになった。
下図の通り、業態別の購買額の対前期比(今期18年4月〜19年3月 前期17年4月〜18年3月)を見ると食品スーパーが97.6%と落ち込む一方、食品を強化するドラッグストアが103.1%と増加するがここまでは想定通り。だが食を中心とするマーケットでもっとも伸長しているのはディスカウントストアで、実に対前期比で112%となっている。
問題は、どの業態から売上を奪っているか?ディスカウントストアは満遍なくほとんどの業態から売上を取っているが、とくにスーパーマーケットから大きく売上を奪っているのである。
品質や空間にこだわり
従来のイメージを払拭
なぜ、ディスカウントストアはここにきてシェアを拡大させているのか。大きな要因は、各社が低価格だけでなく、品質も追求した店づくりや商品開発を進めていることだ。そうすることで、これまで持たれてきた“安かろう悪かろう”というイメージを払しょくし、新たな利用客を取り込んでいる。
そんなディスカウントストアの先進企業の多くがベンチマークしているのが、欧米で勢力を拡大しているハードディスカウンターのアルディ(Aldi)とリドル(Lidl)だ。ともに第二次世界大戦後ドイツで生まれ、低価格かつ高品質を追求することで低所得者だけでなく中間層にも利用を広げ、08年のリーマン・ショックなどを好機として、世界各地で成長を遂げている。日本のディスカウントストアも同様の手法で、消費者の節約志向を取り込み利用者の獲得を図っている。
北辰商事「ロヂャース」の
パッケージにもこだわるPB
具体的な事例を紹介しよう。たとえば日本初のディスカウントストアとされる「ロヂャース」を展開する北辰商事(千葉県/太田順康社長)は、15年からプライベートブランド(PB)「マイカイ」の開発をスタートしている。粗利益率を大手チェーンPBの半分ほどの25~30%に設定して、高品質かつ低価格な商品を実現し消費者の支持を獲得。PB投入前との比較で3ポイント近くの売上総利益率の改善に成功している。
同社がPB開発のうえでアルディ・リドルを手本にしているのが、パッケージデザインだ。全商品で統一するのではなく、品目ごとに異なるデザインを採用している。そうすることで、それぞれのカテゴリーの魅力をより訴求するとともに、似たような商品が多く並んで売場が乏しい印象にならないようにしている。
ビッグ・エーは焼きたてパンや
小型家電も品揃え
イオングループ傘下で小型ディスカウントストアを展開するビッグ・エー(東京都/三浦弘社長)は、アルディ・リドルをベンチマークし、新たな商品の投入や、買物環境に配慮した店づくりを始めている。
たとえば、徐々に設置店舗を増やしているのが、インストアベーカリーだ。食品スーパーと遜色ない品質を追求した商品を税抜89円均一という低価格で販売する。
また、20年2月期からは、従来より洗練された内装デザインを採用するほか、いつでも「発見」のある買物環境をめざし日用雑貨や小型家電などを集めたコーナーを設置した実験店の出店もスタートさせている。
イオンは21年3月期までの3カ年の中期経営計画でディスカウントストア業態の強化を方針に掲げており、ビッグ・エーも来期からは年間20店ペースで新規出店できる体制の構築をめざしている。
このようにディスカウントストアは、低価格なだけでなく質をともなった商品・サービスを提供できる実力を身につけてきている。さらに低価格実現のために、ローコスト・オペレーションの施策も先進的に進めている。たとえば前述のビッグ・エーは、店舗作業の効率化により、同社標準の売場面積100坪の店舗を、原則24時間営業にもかかわらず48人時/1日での運営を可能にしている。今後人手不足の深刻化が想定される食品小売業界において、ディスカウントストアは持続性という点でも競争優位性を持っていると言える。
ビッグ・エーの三浦弘社長は「消費税増税の今こそディスカウントストアの認知度と評価を高めるチャンス」と述べており、他業態への攻勢を強める姿勢だ。食品スーパー各社はこれまで以上にディスカウントストア対策を意識する必要があるだろう。