このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、大手コンビニエンスストアのチェーン加盟店のオーナー兼店長が人手不足のため、一見なす術がないこの事例とその解決策を紹介したい。
第12回の舞台:コンビニエンスストア
都内のコンビニエンスストア(店長以下、アルバイトは17人)
バイトの中核は中年フリーター、外国人、高齢者
深夜1時、マンションの3階。40代前半の夫婦が見入るのが、1階のコンビニエンスストア店内の防犯カメラを通じて送られてくる映像だ。レジ付近やCDコーナー、雑誌や総菜、飲料水などの付近に6台設置してある。バックオフィスには、3台ある。
今日は2週間前からアルバイトとして働き始めた吉永(35歳)がはじめて深夜(22:00∼07:00)シフトに入る。いわゆる、中年フリーターだ。その姿が、夫婦の自宅に接したカメラの画面にリアルタイムに写る。深夜シフトでパートナーを組むのは、同じくフリーターの中尾(42歳)だ。この店でのアルバイト歴は、10年を超える。
15年ほど前に、夫婦の父親(夫の実父)が弁当屋を閉め、コンビニエンスストアのチェーン店に加盟し、オープンさせた。父は数年後に他界。その時から、長男の吉永がオーナー兼店長になった。それを妻の陽子(41歳)がアルバイトスタッフとして支える。
当初からアルバイトは、平均20人程。週3∼4日以上のシフトに入る人は年々減り、今では5∼7人だ。
カメラの画面をじっと見ながら、夫婦が話す。
「2週目で、さっそく深夜に入れるのは早いんじゃない?」
「ほかに人がいないから、仕方がないだろう…。学生が(アルバイトの面談に)来ないんだから。お前ぐらいの年齢の主婦も来ないよな」
現在、アルバイトは17人。週4日以上の勤務は5人。30∼40代のフリーターの男性、20代前半のスリランカからの留学生、60代の後半の男性などだ。学生や30∼40代の主婦は5人しかいない。アルバイトスタッフの中核は、30∼40代の中年フリーター、外国人、高齢者たちなのだ。
「このメンバーだけでは、数が足りない。俺が週6日、1日6∼10時間のシフトに入らないと、(店が)回っていかない。お前が週4日、1日5∼6時間のシフトだろう。母さん(店長の実母)が70代後半で、週6日、1日2∼4時間。いつまでも、この生活は続かないよ」
夫婦は無言のまま、画面を見つめていた。吉永と中尾の姿が画面に写らない。
「さっそく、写らないところにこもったのね。バックオフィスの端のほうは、カメラに写らないから…。あそこで何時間も休憩しているの。中尾さんに教えられたな」
「それをわかっていても、こちらは強くは言えない。辞めてもらっては、困るからね」
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こうすればよかった!解決策
スタッフの縁故採用でも何でも、採用し続けることが一番重要
程度の違いはあれ、コンビニエンスストアの最前線はこのような状況だと思う。私は、次のような教訓を導いた。
こうすればよかった①
アルバイトスタッフの中核をまとめる
アルバイトスタッフの中核は、30∼40代の中年フリーター、外国人、高齢者たちだが、このこと自体に問題はない。理想をいえば、学生や30∼40代の主婦が増えるのが好ましいのかもしれない。しかし、労働力不足が深刻化する中、様々な世代のアルバイトでそろえるのは、現在は相当に難しい。
むしろ、中年フリーター、外国人、高齢者をさらに増やすのが得策だ。例えば、外国人の友人である外国人を紹介してもらう。中年フリーターからの紹介でもいい。中核を成す人たちの協力を得るのが本来、真っ先にすることである。数が減っている学生や30∼40代の主婦などに必要以上に期待するのは避けたほうがいい。
そのためにも、中年フリーターがバックオフィスのカメラの写らないところで、仮にサボっていたとしても、多少は黙認することもやむを得ない。ただし、許容限度を決め、そこを超えたところで、早急に注意指導をしたい。
こうすればよかった②
とにかく採用し続けること
現時点で、店長夫婦と母親が相当な時間を勤務シフトに入れている。人手が足りないのだから仕方がないのかもしれないが、とりあえず、母親と妻の時間は今後、しだいに減らしたほうがいい。その時間を中年フリーター、外国人、高齢者に任せることができないか、を検討しよう。外国人の場合は労働時間に制限があるが、中年フリーターや高齢者はそれぞれ週1∼2日、1日数時間増やすことができるのではないだろうか。この層の人数をとにかく増やすのだ。
母親と妻を現状のまま働かせていると、人手不足が常態化してしまう恐れがある。これが、怖い。現在のアルバイトのままで新規に次々と採用していないと、主力の中年フリーター、外国人、高齢者が辞めたときに取り返しのつかない状態になる。人手不足を補うためには、この業界の場合、とにかく採用し続けることだ。決して「守り」の姿勢になってはいけない。今、この夫婦はその意識になりつつある。警戒すべきだ。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。
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