消費増税を目前に控えたいま、食品小売業はどのように対応すべきか?キャッシュレスポイント還元、軽減税率といった、公平性を欠く制度がはじまり、小売各社はその対応に頭を悩ませている。諸般の制度の不備とこれが消費に与える悪影響、さらには今後の業界への余波について、ヨークベニマル(福島県)の大高善興会長が語った(7月12日にヨークベニマル取手戸頭店で行われた会見を元にまとめました)。
ポイント還元目当てに、小売業が続々減資へ動く
ーーヨークベニマルの直近の業績について教えてください。
大高 2019年3~5月の既存店売上高は、すでに公表済みの通り、対前年同期比1.2%減でしたが、営業利益は同25%増でした。6月も売上はマイナス傾向ですが、利益ベースでは予算どおりに対前期比プラスで推移しています。外部環境を嘆いても仕方ないですから、内部でやれるムリ・ムラ・ムダを省いていくことに注力します。ある時は経営の踊り場を迎えることもあるだろうが、嘆かずにやるべきことを愚直にやるのみです。
――消費環境が厳しいなか、10月には消費増税を控えています。
大高 (キャッシュレス取引に関するポイント還元制度の適用をめざし)、多くのスーパーマーケット企業が減資しており、これから大変になります。このエリア(=取手戸頭店のある茨城エリア)ではタイヨー(茨城県)さんがすでに減資し、大手では売上高が2700億円(生協は供給高)もあるコープさっぽろや、みやぎ生協も申請し、さらにはCGCグループ加盟各社もこぞって減資を始めています。
編集部注 今回の消費増税に際して、中小企業は、政府が10月より導入するキャッシュレス取引に関する5%のポイント還元制度の適用対象となる。小売業は資本金5000万円以下がその対象で、非上場のスーパーマーケットは各社次々と減資を進めている。資本金5000万円以上の企業と5000万円未満の企業とで、仮に同じ仕入れ条件で同じ売価だとすると、中小企業は事実上5%の値下げ販売が可能になる。課税所得15億円を超える事業者も対象外。減資のできない、かつ収益性の低い上場企業にとってはとくに死活問題となりそうだ(減資そのものは株主の理解さえ得られれば、上場企業でも問題なく可能。ただし資本金は企業の信用力等に影響を与える)。なお、同制度は9ヶ月限定の措置。
大高 タバコと酒もポイント還元適用対象となることも大きな問題です。我が国はたばこ事業法36条第1項で「タバコは値引きし、景品をつけてはいけない」と定められています(編集部注・条文は「小売販売業者は、第33条第1項又は第2項の規定による認可に係る小売定価によらなければ製造たばこを販売してはならない」。大高会長が指摘する通り景品は実質的な値引きと見なされ、法律違反の恐れがある)。にも関わらず、政府はこれを破ろうと言うのだから呆れてしまいます。
どことは言いませんが、コンビニエンスストアではタバコの売上構成比が25%もあります。コンビニエンスストアのキャッシュバック還元率は2%ですが、その影響は大きい。また、増税後に買った方が消費者にとってお得なのだから、今回の増税は「買い控え」が起こります。
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増税後は、価格競争とポイント還元でデフレが起こる
増税後、価格競争とポイント還元でデフレへ
――大手小売業は危機感を露わにし、各社減益を見込んで、戦う準備をしています。
大高 経産省の審議会や有力国会議員が数多く参加する流通懇話会にも参加し、「自由競争の中で、国が5%の割引制度を作り一部の企業を優遇するなんて馬鹿げています」とお話ししました。
地方に行ったらスーパーマーケットは中小企業が強いんです。大手企業で本拠地を除いて地方でナンバーワンをとっている企業はどこもないんです。繁盛店は皆中小のローカルスーパーマーケットなのに、そこに5%のポイント還元をつけて、「大手企業は強いからいいでしょう」と言われるが、そんなことはないですよ。5%売価が違ったらお客はどっちに行くと思いますか?
そんなことを散々申し上げたのですが、「もう決まっておりますから」と言うのみでした。
消費喚起と政府は言いますが、消費喚起になどなりません。むしろ、価格競争とポイント還元により、デフレが起こります。
――軽減税率への対応でも、各社苦慮しています。
大高 非常におかしな制度です。総菜の持ち帰りと店内飲食では、消費税率が前者は8%、後者は10%となるわけですが、スーパーマーケットの駐車場に止めた車の中で食べても「敷地内だから10%が適用される」と言うのです。じゃあどうやって取り締まるのかと担当者に聞くと、「良心に訴える。レジでは『店で食べる人はお申し出ください』とだけ掲示して頂ければ良いです」と言うわけです。
ですが、正直に10%を支払っている人からしたら、8%しか払わないのに、店内で食べている人がいたとしたら、不公平だと思うでしょう。また、子供と一緒に店内で食べていてその人が8%しか払っていなかったとしましょう。子供に「お父さん、それはおかしいよ」とたしなめられてしまうかもしれません。そんな状況をつくること自体、とてもおかしなことだと思います。
いまヨークベニマルとしての対応を検討中で、一生懸命努力して行きます
――10月以降の懸念事項としては、消費の落ち込みよりも、ポイント競争の激化ということですね。
大高 ええ。食品は消費税率は上がりませんから、5%のポイント還元が大きいですね。5%売価が違えば、それを上回る価値あるオリジナル商品がない限り、安い方で買いますし、そんな特殊な商品はそうそうありません。
一方で、優遇制度が終わった来年6月以降、悲劇が起こるでしょう。(キャッシュレス比率が高まるということはその分)経費も余計にかかってくるわけで、利益が吹き飛んでしまいます。
――お客さまの消費行動で何か気になる変化はありますか?
大高 6〜7月の状況を見ていますと、天候要因だけでなく、お客さまの購買行動がすごく変わってきていると実感しています。この10年で食品の可処分所得は増えていません。むしろ減っているなかで、店数が増えていて、異業種を交えたサバイバルの様相を呈しています。ライバルもどちらも売上が増えているということはなく、どちらかが増えれば、どちらかは減っています。
そうしたなか、加工食品で差別化することは、差別化要因が価格しかないため難しい。だから、スーパーマーケットは、生鮮食品と総菜で差をつけるしかありません。
幸いなことに、スーパーマーケットは、そう簡単に技術力が付くものではありません。それに、いくらインターネット販売が隆盛しても、歩いて10分以内にあったかいご飯、できたての総菜、切りたての刺身を売っている店があれば、そこに行きます。それはアマゾンにもできないこと。だから、社員には心配するな、やるべきことをやれば大丈夫だと言っています。