「時代に遅れ続ける」だから持続可能 京都の老舗鞄メーカー「一澤信三郎帆布」悟りの経営とは

2023/02/14 05:55
油浅 健一
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真面目なものづくりへのこだわり

一澤帆布商品
定番の形に新しい色や柄が登場している

 一澤社長はさらに続ける。「製造直売ということは、関連会社も下請けもない。それが一番真面目なものづくり、商いやと思っている」。作り手が責任を持って製品をつくり、自信を持って直接、顧客に販売する。当然、そこにはいわゆる第三者、利害関係者が製造に介入する余地はない。結果、職人はやりたくないことや無理難題をする必要がなくなる。「一番真面目なものづくり」という表現には、そんな意味合いが込められている。

 もうひとつ、工房直結の1店舗経営には重要な「機能」がある。職人が、顧客の声をダイレクトに聞けることだ。作り手が商品説明をし、買い手は直接作り手に質問でき、意見も言える。製品づくりで重要となるユーザーの声を、企画や販促担当でなく、作り手が直接聞ける環境。それは、ものづくりにおいて究極といえるだろう。工房隣接の1店舗限定のこの販売スタイルだからこそ、「時代に遅れ続ける」と言いながら、顧客のハートを捉え続けられるのだ。

 店内に所狭しと並ぶ商品は、多種多様だ。「​​創業から100年以上、私たちは流行を追うのではなく、本当に必要とされているかばんを作り続けてきた。私の代では多様な種類の製品を開発し、老若男女に使ってもらえることを目指している」と一澤社長。新たな製品は、顧客の生の声から生まれるが、新製品が毎年発表されるわけではない。また、一度作られた製品が廃番になることもない。同社には、いわゆる開発計画のようなものはないのだ。

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