世界で戦う企業は当社と同じ製販一体型のビジネスモデル=神戸物産 沼田昭二 会長兼社長

聞き手:千田 直哉 (株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア編集局 局長)
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赤字のメーカーを買収して短期間で黒字化

──92年、中国に工場をつくり、製造業に参入しました。製造に関するノウハウなどはどのように蓄積されていったのですか?

沼田 当時は製造技術を持っていなかったので、日本のメーカー6社に工場を場所貸しし、当社の従業員を使ってもらいました。日本のメーカーが独力で中国に投資して事業展開するのはリスクが高い。しかし低コストで製品をつくり、世界中に輸出できますから、メーカーにとってのメリットは大きい。

 そこで、当社がリスクを持つことにしました。その代わりに、6社が何十年にもわたって蓄積してきた製造ノウハウや技術を学ぶことができたのです。

 その後も、M&A(合併・買収)を実施し、現在では国内メーカー10社、13工場を保有していますから、それらのノウハウや技術も当社に全部蓄積されています。

──国内メーカーのM&Aは、08年以降、とくに積極的に行っています。

沼田 欠如しているものをM&Aによって補うというのが基本政策で、すべて計画的かつ戦略的に行っています。本当はもっと早い時期からM&Aに精を出したかったのですが、私が04年に大病を患ってしまったこともあり計画よりも遅れてしまいました。ところが、08年ぐらいからメーカーの経営環境が悪化してM&Aをしやすい状況に変わってきましたので一気に進めることにしたのです。

──M&Aの対象はすべて赤字であり、短期間で黒字に転換させていると聞いています。具体的にはどのような手法を用いているのですか?

沼田 09年6月には子会社のメーカーで累計月間6100万円の赤字でしたが、それから1年後には、月間5000万円近い黒字になっています。ですから1年で1億円以上単月度損益が改善していることになります。

 立て直しは技術力さえあれば、さほど難しいことではありません。赤字になるには理由があるわけですから、そのおかしい部分を修正して、あとは各社の工場長に任せ、当社から従業員を派遣することはありません。

 当社グループに入ることで、メーカーのコストは上がります。残業代や賞与をしっかり支払いますから、人件費は平均で20%ほど上がります。その部分をカバーしてなおかつ黒字化させるわけですから、根本的な部分は全部変えています。

継続的に売れ続ける商品づくりが開発の勘所

──次に商品開発に関する基本的な考え方を教えてください。

沼田 万人受けするような無難な商品はつくらずに、常にこだわって「おいしい!」と自信が持てる味を追求しています。販売価格は多少高くなっても構わないから、おいしいものをつくるというのが基本的な考え方です。価格が安いだけの商品では、リピーターはつきません。お客さまは“ベストプライス”であれば絶対買ってくださるという信念を持っています。

 一般的な食品小売業は日替わり特売を実施することで売上を稼いでいます。しかし業務スーパーは毎日同じ低価格で提供するエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)政策ですから、個々の商品が売れないとそれだけ売上が落ちてしまう。つまり、単品の売上不振を代替えできる要素がないということです。

 だから、リピーターをつくることが商品開発の重大な肝になるわけです。広告を打ちませんし、日替わり特売もしない、何にもしません。ただお客さまに一度買ってもらい、満足してもらい、またもう一度買ってもらう、それだけなのです。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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