メニュー

強固な“店長連絡網”を活用!経営トップによる「店舗巡回」で効果を出す方法とは

デジタル化を急ぐ小売業界にあっても、「Management by walking around」(MBWA:巡回による管理)を実践する経営者は思いのほか多い。ウォルマート(Walmart)の創業者である故サム・ウォルトン氏は、その代表格であるし、コストコ(Costco Wholesale)の創業者であるジム・シネガル氏も全米に展開する約550店舗を1年間ですべて回ることをノルマとしているという。

Thampapon/istock

ユニー家田さんの「店長の裏をかく臨店」

 “臨店”ということで思い出されるのは、ユーストアの創業者でユニー(愛知県)の社長、会長、相談役を歴任した故・家田美智雄さんだ。リストラを断行していた当時の家田さんは、単身でふらっとどこの店舗にも突然現れた。

 文句や小言を言われることを嫌った店長たちの間には自然発生的に電話を使ったネットワークが生まれ、「いま金沢文庫店(神奈川県)を出たところだから、次は日吉店辺りに顔を出すだろう」といった情報が飛び交った。

 ところが、こうした動きを察知した家田さんは裏をかき、掛川店(静岡県)に突如として現れる――。

 ふいを突かれた店長は「あちゃちゃちゃちゃー」だ。

 こんな攻防を繰り返すうちに、店長たちは、“臨店”を予測して、“泥縄”的に店舗を装うことをだんだんバカらしく思うようになり、常日頃からいつ“臨店”されても問題のないような店舗管理をするようになっていった。

 家田さんは、現場を回ることで“こころ”の部分も含めた店長教育を施したわけだ。

店長間の強固な情報網を活用?

 創業者の故・中内㓛さんが勇退した後に、ダイエーの社長に就任した某氏は、毎週末を店舗巡回に当て、精力的に店回りをこなしてきた。約2年半での通算巡回自社店舗数は700に及んだ

 ある日、その社長は「何かヘンだぞ」と現場のホスピタリティに疑念を抱くようになった。昼食を取ろうと、店舗内の社員食堂に立ち寄ると、必ず大好物の「ひじき」が出迎えてくれるようになったからだ。

 思い当たるふしはあった。以前、ある店舗の社員食堂で「ひじき」が出されたときに、「僕はひじきが大好きなんだ」と漏らしたことがあったのだ。よくよく考えると、それを契機にして、どの店舗でも「ひじき」が出されるようになった気がする──。

 ここで、話は中内㓛さんがトップに君臨していた時代に遡る。

 当時のダイエーは、良い意味でも悪い意味でもトップダウンの企業。中内さんが店を回れば、そこでの指摘や発言は、一挙に全国の店舗を駆け抜けた。

 全社として取り組むべき課題もその店舗限定の課題も渾然一体となって、売場は中内さんの言葉を起点として、右に倣えで変わった。カリスマに対する“畏怖”が店長ネットワークをつくりあげていたためだ。

 その社長はひらめいた。「中内さんがいなくなったいまも、ダイエーには、強固な店長情報網が残っているんじゃないか?」。

 ならば、とばかりに社長は、この情報網をうまく活用することに知恵を絞った。たとえば、当時のダイエーが全社的に推進した「関連販売」の方法を巡回の際に指摘すれば、店長情報網に乗るに違いない。中内さんとの違いは、全社的にやるべき課題のみを指摘することだ。

 その社長の思惑はまんまと当たり、1店舗での指摘は、多くの店舗での水平展開につながったという。

 やはり、現場(=売場)に行かなければわからないことはヤマほどあるということがわかる。