ホームセンター業界で突出!ジョイフル本田の株価が好調な3つの要因とは

椎名則夫(アナリスト)
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ジョイフル本田、高評価3つの背景

 筆者は次の3点が高評価につながったとみています。

 第一に、2022年5月に発表された中期経営計画が経営課題を的確に捉えたものだった点。

 第二に、8月に実施した自社株買いが、時宜を得ていて、株式の需給を引き締めている点。

 第三に、資本市場の評価に目配りがかかせないような株主構成である点。

 ひとつひとつ見ていきましょう。

要因1 的確な新中期経営計画

ジョイフル本田は2022年5月に新しい中期経営計画を発表していますが、これが同社の経営課題に的確な内容だと筆者は考えます。
 筆者が見る同社の財務的な経営課題は、同社の総資産経常利益率(直近通期8.3%)が同業他社比トップ水準にあるにもかかわらず、それを自己資本当期純利益(ROE)の圧倒的高さに結びつけられていないことにあります。同社のROEは直近通期では9.7%と高水準ですが、(決算月はずれますが)アークランズとコーナン商事の後塵を拝しています。

 言いかえれば「保有する資産で効率よく稼いでいるが、自己資本が厚く借入依存度が低いために自己資本当期純利益が最大化されていない。限られた数の大型店舗に依存する事業構造のため、自己資本を手厚くしたくなる気持ちはわかるが、店舗数を着実に増やして一店舗あたりのリスクを縮小すれば、規模拡大とリスク低下を両立できるはずだ。負債を適切に活用し、成長に資源を投下するべきではないのか」ということになるでしょう。

 そこで同社の新しい中期経営計画では、3年間で約30%の増収を目指す、かつROEの水準は現状維持する、株主資本配当率をこれまでの2.0%から2.5%に引き上げ累進配当を行う(内部留保の蓄積を抑制する)、適宜自社株買いを行うというコミットをしました。

 これは成長、資本効率双方へのコミットであり、先に述べた同社の課題に呼応した回答です。そのためには新規出店等で投資効果を着実にあげることが必須になりますが、さらに、当座の成長戦略において過剰とみなされる株主資本については配当ないし自社株買いで株主に還元する、一歩踏み込んだコミットをしていると思います。

 ちなみに今春コメリも中期経営計画を発表しています。こちらは売上成長目標とROE、株主還元の強化を謳っており、投資計画の明細も示され、ジョイフル本田と共通点も多い内容です。

 ただし、ジョイフル本田の計画では(タイミングとして後出しではありますが)、キャッシュフローの計画を明示しています。キャッシュインの金額、キャッシュアウトの金額とその使途が具体的に示されており、成長と資本効率双方へのコミットをフロー面からもわかりやすく表現しています。(コメリの資料からもキャッシュフロー計画の青写真を外部者が作成できることはいうまでもありませんが、あらかじめキャッシュフロー計画を示してもらう方が助かります)

 職業柄、さまざまな業種の企業の中期計画を吟味していますが、BS・PLのKPIに加えてキャッシュフロー計画を示すことで株主の理解を得るというのが最近のトレンドです。ジョイフル本田の手抜かりのなさを感じます。

要因2 時宜を得た自社株買い

 しかしこの中期計画発表後、株価に目立った反応はありませんでした。一株純資産に対して筆者概算で5%程度のディスカウントの状況が続きました。

 そこで、中期計画発表の1ヶ月後、取締役会は自社株買いを決議しましたが、8月3日の通期決算発表までまったく買付が進みませんでした。株価の方も横ばいに終始しました。

 株価の膠着状況をうけ、次に経営陣は通期決算の発表において増配を決め、さらにいわゆるコミットメント型自己株式取得を実施しました。2022年6月末の一株純資産額1751円を約10%下回る1561円で、まず25億円相当の自社株を買付けたのです。

 この結果、中期計画で示された資本効率に対する経営の明確な意思、一株純資産額よりも低い株価を放置させないというメッセージが伝わる、効果的なアナウンスメントになったと思います。株価は、このあとじり高になっています。
 
 この自社株買いの実質的な相手は野村證券グループ(以下、野村證券)になっているようです。野村證券はこの取引にあたりジョイフル本田の株主から株を借りているため、この株券を返済する立場にあります。そこで野村證券は株式市場等からジョイフル本田株を一定数まで買い進めているはずで、これが、足下までの株式需給にプラスの作用をしているはずです。

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